筑波大学名誉教授 中川八洋
悲しい事件が起きた。が、この事件、私が1973年から一貫して警告していたもので、起きるべくして起きた。悲劇は、102歳の母親を殺害した娘(71歳)の2024年7月の事件と、100歳の母親を殺害した息子(79歳)の2025年11月の事件。いずれも長生きしすぎた親の介護疲れである。
過剰な公的医療保険制度のもと、日本人は世界一の医療をふんだんに享受している。特に老人は自然死をしないよう、世界一のスーパー過剰医療が提供されまたその受療が強迫的に推奨される。ために、日本人の平均寿命は急騰し続け、日本は世界一の高齢社会になってしまった。これは、歓迎すべきことなのか、それとも日本民族が亡国へと突進する狂気の断末魔なのか。
私は、田中角栄の超・福祉国家路線が始まった1973年4月1日から、霞が関を去る1980年6月末まで、しばしば厚生省年金課長に、「過剰な社会保障制度はいずれ日本の経済・財政を崩壊に導き、加えて日本人から勤勉の美徳や相互扶助の倫理すら破壊して必ずや日本国を根底から転覆させる」と、主に数学計算ぎっしり(平均寿命の推定伸び、年金給付金の鰻登りの急騰、家族や夫婦の絆の薄弱化からの出生率の低下、世代間の極度な不平等、・・・)の論文を執拗に送り付けた。当然、無視された。
例外が一度、年金課長の横尾和子(最終ポストは最高裁判事)から話を聞こうと連絡してきた。しかし、会ってがっかり。彼女は非数学に徹し、私を納得させ黙らせようとした。彼女の主張は、数学的な推定計算を核とすべき社会保障担当の官僚ではなく、詭弁一色の政治家のそれ。