中共が死亡宣告を突きつけた日本/台湾“運命共同体” ──日本・台湾「国防」に有害な“America Alone 反・中共”トランプ外交

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筑波大学名誉教授  中 川 八 洋

【お断り】 前々稿で、私が「頑張れ、トランプ」と熱烈声援を送っているものに、トランプの①“不正の塊”郵便投票糾弾闘争と➁米墨間「三千㎞壁」建設、の二つあると述べた。が、全部で四つあった。第三番目が③米国の惨たる分断“現実”を国民にありのまま見せた偉業。第四番目が④反科学の地球温暖化CO2説に異議を唱えパリ協定から離脱したトランプこそ、科学に適う勇者であろう。

 私がトランプに万雷の拍手を送る第三番目。米国社会は、レーガン以後の1990年代より顕著な分断情況を呈するようになった。が、クリントンやオバマらはこの隠蔽・糊塗に終始した。バイデンは、この「分断」隠蔽作戦をもっと狡猾に強化するだろう。一方トランプは、歯に衣着せず、悲惨な「分断」情況を米国民に白昼公然に暴露した。分断を可視化した。国家の現実をありのままに国民に提示するのが、政治家に課せられた正しい国政遂行。この意味で、この点に限るが、トランプ大統領は、米国民に対して、称賛されるべき極めて健全な行動をした政治家として特筆されるべきだ。

 米国の分断は、ソ連(フルシチョフ)が背後で操る“KGBロスケ共産主義者”キング牧師の「公民権運動」運動を皮切りに、1960年代に始まった。この米国社会の深刻な分断情況をアメリカ国民に警鐘乱打したのがサミュエル・ハンチントン。その著が『分断されるアメリカ』(2004年)。トランプは、ハンチントンに遅れること十五年、意図せずして米国民に分断の現実の惨状を啓蒙した。立派である。

(以下は、三分割した論文の、前々稿と前稿に続くラスト・パートに当る)。

トランプの反・中共は米国本土内。西太平洋での反・中共ではない。峻別せよ!

 日本の民族系は教養がなく知能指数が際立って低い下衆階級。国際政治などほとんど見えない。外交や国防という国政の中枢を正しく思考するに不可欠な国際政治が全く把握できない結果、民族系は保守の対極、つまり共産党・朝日新聞の別動隊になる。だから彼らは、次のようなイロハ事項の比較権衡すらできない/しない。

1、トランプは親ロであり、日本の主敵ロシアから日本を守るに、トランプの対露外交は有害で危険。

2、トランプの反・中共は、日本/台湾が裨益する“西太平洋を守る反・中共”に力点を置かない。あくまでも米国本土内への中共の経済侵略や情報侵略を排除する事に的を絞った自国重視に集中する。日本/台湾に少しプラスする部分もあるが、「大きなマイナス」の方が顕著。この「少しプラス」は、バイデンでもするだろうから、バイデンとトランプの間には差異はない。

3、バイデンは“やや反露”。“親露”トランプより、相対的には日本に直接裨益する。例えば、“稀代の反日コミュニスト”安倍晋三のスーパー対ロ売国行為(プーチンと27回も会談)をバイデンなら阻止した。バイデンはまた、日本全土をロシアへ献上することに全身全霊を傾注している“悪魔の敵国ロシア人”鈴木宗男を(刑法外患罪ではなく別件)逮捕せよと安倍晋三に迫っただろう。対ロ外交に関する限り、ほんの少しだが、バイデンの方がトランプより日本国に貢献したのは間違いない。

 そこで、以下、トランプの「反・中共」を、米国本土と西太平洋の二つに地理的分離した解剖をしよう。日本が米国に期待し欲するのは、“西太平洋での反・中共”。“米国内における反中共策!”ではない。トランプの“Fortress America  米国のみ安全な砦に立て籠もる”策では、日本の「対中」国家安全保障は向上しない。つまり、この地理的峻別をせず、トランプ支持/不支持を騒ぐ酔っ払い日本人は、意図せずして日本を撹乱し日本の国益を毀損している。

 換言すれば、抽象的な「反中か」「親中か」で米国大統領を評価してはいけない。具体的に、①「南シナ海」奪還の西側同盟を構築するか否か、②米国が西太平洋に投入する海軍力&核戦力をどれほど増強するか否か、③ニクソン対中外交路線を180度逆に転換すべきだが、それをどれほどドラスティックにやるか否か、④日本に原潜八隻を含め防衛力三倍増を要請するか否か。これらが米国大統領を評価する本物の物差しである。

トランプ西太平洋“防衛”策は「負け犬型撤退」。Rolling-Back戦略なき防禦は無力

 日本は、中共の軍事的大膨張に対し、自国の存亡がすでに風前の灯火となったにも拘わらず、いっさい何もしない。1945年8月~46年4月の在満洲「婦女子」の地獄図をそっくり再現して、二千万人のレベルで日本国民が阿鼻叫喚の中で殺されていく情況は、そう遠くない2045年までに到来するだろうに、麻薬を吸引した刹那に生きる重症の中毒患者となった一億日本人は、一年先以上を一切考えないし、また全く見えない“全盲の狂人”に成り下がった。

 やれ「デジタル国家への改造だ」、やれ「日本の重要な法的慣習《ハンコ文化》なんぞ一掃だ、日本文化なんか糞喰え!」、とスマホで脳を失った痴呆小学生のごとき(注1)戯言遊びに現を抜かす時間など一秒もないのに、今や一億日本人に、国家や子孫の行末を案ずる正常者が一人もいない。

 この“トンデモ国家”日本に居るものが、米国の外交政策を解剖し詮索的に論じるのは、甚だ忸怩たる思いがあるが、一人でもいいから日本人が、“友邦”米国外交の実情と欠陥を直視し振り返り、自国の国防と外交の抜本的見直しを決意し行動することを期したいからである。

 トランプの「対・中共」策を、表1に分類し纏めておこう。America First=America Alone=Fortress Americaとは、「米国本土の外に関わる事柄にはほとんど何もしない事」がよくわかる。かつてAmerica Firstが全米で猛威を揮った1930年代、リンドバークらは「America First、Second、Third」と叫んだ。国内問題最優先主義のAmerica Firstでは、“友邦や同盟国は、二番目扱いも三番目扱いもされず、番外”となる。

 なお、歴史の教訓。スターリン準崇拝者ルーズベルト大統領の介入主義の方が、英国をヒトラー・ドイツから救い、近衛文麿によって共産国となりスターリンに日本列島全土を献上し昭和天皇を銃殺する予定の“気狂い国家”日本を叩き潰して、日本を地獄から救出した。米国のAmerica Firstと、反全体主義の介入主義とのいずれを、日本が歓迎すべきかは、このように既に実証済みである。

表1;中共の軍事的大膨張に対し“お座なり”に終始するトランプの「反・中共」政策

トランプの「中共の対米経済侵略“押し戻し”策から、無為・惰弱な日本は何を学ぶか

 表1のAは、いわゆる“米中経済戦争”のこと。これは、米国の経済・産業基盤に対する中共の過激&過剰な経済侵蝕から米国の産業と雇用とを守る、純然たる経済問題で、国家安全保障問題ではない。が、トランプ開戦の“米中経済戦争”には、「中共の経済力を削いで、その軍事力増強ペースを減退させる」「世界経済における中共の発言力を低下させる」の思想が、顕著に欠如している。

 このトランプ対中経済戦争の特性を鮮明にすべく、レーガンの対ロ経済政策の一例と比較しておこう。レーガンは就任と同時に、ソ連に向けて、食糧と家畜飼料を大規模に輸出し始めた。日本の親ソ「極左」新聞は、レーガンの反ソ外交など、かくもハチャメチャでお笑いだと、揶揄報道一色だった。

 私は、レーガンの「反ソ」は一貫してブレないから何か企みがあるはずと思い、国防省の知人に尋ねた。回答は「大量に食糧をソ連に輸入させ外貨を大幅に浪費させ、ソ連が西側から購入している兵器に供するハイテク部品の代金を枯渇させるのが目的です」だった。確かに1983年から、ソ連の原潜など稼働率が急激に低下した。西側から輸入する重要部品が交換されなくなったためである。

 つまり、天才レーガンは、農家の所得向上とソ連の軍事力の低下とを、一石二鳥でやり遂げたのである。が、このような発想はトランプには無い。トランプには、中共の爆発的な経済発展を妨害しようとの気配がない。市場経済と統制経済の良いとこだけを合体した(備考)、鄧小平が創造した魔法的な“奇跡の混合経済体制”は、今も欠陥を見せない。

(備考) 1990年代に入ってからの日本は、過剰な統制経済の導入と異常な超・福祉国家路線で、その市場経済は逼塞状態。いずれ窒息死する。迫る近未來、日本経済は100%の確度で“死”を向かえる。鄧小平とは逆さに、1990年代以降の日本は、ナチ統制経済と市場経済の悪い処ばかりを合体させ、今に至っている。

 ただ、“選挙目当て”的な側面もあったが全米的に支持されているトランプの「米中経済戦争」には、日本が参考にし採用すべきものが多々ある。米国の対中“経済戦争”で、日本の“中共の奴隷新聞”が騒いだ「米国経済への大打撃」が、実際にはほとんどなかった現実は、この一つ。つまり、日本が対中経済断交しても「日本経済に致命傷を与えるほどの悪影響はない」「日本国民が我慢できる範囲に収まる」「経済向上の他策が見つかる」の重要参考情報をトランプは日本に提供してくれた。

 例えば、米国(議会超党派)は、2019年8月、「ファーウェイ/ZTE(中興通訊)/ハイクビジョン/ダーファ・テクノロジー/ハイテラ」五社製品を、政府関係機関が購入するのをすべて禁止したが、米国経済には負の影響は皆無だった。また、中共から輸入の約半分に当る2500億ドル相当への高関税25%は維持されているが(2019年12月13日、米中合意)、これによって米国経済が下落する事態は一切発生しなかった。なお、2020年8月からは、この五社製品を使う外国企業はアメリカ政府と取引できなくなった。

 米国は国内雇用と情報安全保障から、このような対中経済戦争を数多く、果敢に行っている。ならば、国家としての破滅が懸かっている日本は、米国の千倍・万倍での対中“経済戦争”や対中“情報防衛”をしなければならない。つまり日本は、中共から日本に来ている留学生/全大学の教員・研究者/企業の社員を全員国外追放にすることを含め、事実上の対中“経済断交”を決断すべき時にある。

 それだけでなく、もう一つの更なる重大問題を看過してはならない。米国がかなり過激な対中経済戦争/安全保障上からの中共製品禁止をしても、中共の爆走状態の経済成長に落込みや衰えが全く見られない事だ。すなわち、中共の破天荒の軍備増強の源である経済を破壊的に低下させる策を講じなければならない。

 参考として天才レーガンの策謀を思い出そう。レーガンは、ソ連経済を叩き潰す方法として、軍備増強競争をソ連に強いた。敵味方が全力で軍拡競争をしている間には戦争は決して起きないから、これは平和を維持する方法でもある。レーガンは、《米日欧の総計経済力とソ連のそれは「五対一」だから、軍備競争をするとソ連経済は風船のように破裂するはずだ》と公言した。

 ソ連KGB細胞に支配されている日本の“ロスケ新聞”は、真赤な嘘「軍拡競争は戦争に到る」と大キャンペーンした。私は日本随一の軍備管理論の学者として唯一人、第二次世界大戦における“ドイツと英国”“日本と米国”のように、「片方が大軍拡をして、他方が軍拡をしない(or軍縮の殻に閉じこもる)不均衡の場合のみ戦争が起きる」から、「レーガンの均衡的な軍備競争は確実な平和維持方法」だと主張した。拙著『核軍縮と平和 (中公新書)』は、この理論を学術的に完璧に証明した。

 特に“戦争狂”国の方が軍備競争で負けると経済破綻して戦争どころでなくなるから、軍拡競争の後に“二十年の平和が訪れる”はずだと、レーガンを擁護した。レーガンの対ソ軍拡競争は図星で、チャーチルや中川の「軍備管理の理論」通り、ソ連は1991年に経済破綻し、軍隊の給与支払いすら出来ず、戦争遂行能力を完全喪失した。崩壊後に分かった事だが、ソ連は1981~1991年の十年間、毎年GDPの29%を軍備に投入し(備考)、これが主因となって経済の自壊を起こした。

(備考)日本の防衛費はGDPの1%。米国は2%以上に増額しろと要求。が、これは控えめすぎないか。GDPの5~7%ぐらいの方が日本の経済成長にプラスする。中共を見れば一目瞭然。

 むろん、上記の方法を中共に適用しても、中共はロシアと同じではないから、中共の経済自壊は起きないだろう。が、ソ連を経済崩壊させた策を発見した経験において、米国と日本は智慧を絞り、中共の経済力を瓦解させる妙策を発見することはできるし、発見しなくてはならない。

中共の台湾侵略は東沙島も同時。尖閣・宮古島・石垣島も同時。日台の運命は一体

 表1に掲げた全ての事項を詳細に論じたいが紙幅が無い。そこで本稿では、表1にある「1、の台湾」「3、の南支那海」「β-(2)、の核戦力」の三つを、触りの部分をほんの少し取り上げる。最初に「1、の台湾」、即ち“台湾をいかにして、迫る中共の侵略=戦争から守るか”を取り上げるが、日本ではほとんど論じられていない問題に絞ろう。

1、中共軍の、東沙島への侵攻占領演習

 2012年9月から、中共は尖閣諸島の日本領海内に、頻繁にその海警「公船」を突入させるようになった。ロジックの前後を入れ替え「尖閣周辺は中共の領海→尖閣は中共の領土」を主張するため。この2012年、尖閣を侵略して自国領土にする戦争準備をしているなら、台湾の南西に浮かぶ、尖閣とは対角線上の東沙島を侵略占領する戦争準備もしているはずと、(専門誌の調査まではしなかったが)新聞やネット報道に、私は気を付けた。八年経った2020年8月3日、私の知る限りだが、雑誌『紫荊』2020年8月号掲載論文の要旨のみの紹介だが、見出し「中国軍、東沙諸島奪取演習を明言」の共同通信ネット記事にやっと出くわした。

 2012年、東沙島に関心を持った理由は三つ。第一。面積は2800m×860m=1.74㎢で、3.47㎢の魚釣島(3500m×1300m)の半分だが、規模が近似していること。第二。中共海軍が第一列島線内を制覇(制海)するには、バシー海峡に浮かぶ東沙島も、「宮古島/石垣島/尖閣」侵攻と同時に、侵略占領する必要がある。つまり、台湾島を真ん中に置くと一直線で連なっている東沙島と尖閣とは、中共の侵略が同時に起きる、対中共「防衛戦闘」における一蓮托生が運命の、双子の兄弟であること。

 第三。運輸大臣・森山欽司と私の1979年の共同熱望──尖閣を、自衛隊や米軍が駐留する軍事基地する──を実現するに、東沙島に対する台湾の実効支配の形態は最高の参考になること。まず東沙島には、C-130輸送機の離着陸ができる空港がある(滑走路1550m)。国立中山大学の研究ステーションや図書館もある。防衛省と陸自は急ぎ東沙島を精査し参考にして、尖閣・魚釣島の軍事基地化の建設を開始されたい。

2、中共は、滑空“弾頭”の実戦配備を大規模に拡大する。台湾はTHAAD2セットの設置を急げ!

 中共は、2019年10月1日の軍事パレードで、「東風16」の弾頭部を滑空翼体に入れ替えた「東風17」を登場させた。その性能は、2017年11月の最初の実験で、射程は1400㎞、大気圏再突入後の滑空高度は60㎞でマッハは6.2であることが判明している。

 高度70㎞以上の標的しか迎撃できないイージス艦SM-3では、迎撃不可能。台湾は急ぎ、台湾の北端と南端にTHAADを各1セット陸上配備する必要がある。これを日本のTHAAD8セットと連結的な運用を可能としなければならない。THAADを二段式に改良すれば、迎撃確率は一気に向上する。イージス艦SM-3について、より低高度の標的を撃てる改良を米国のメーカーは考えているが、THAADは今でも高度50㎞辺りで撃ち落とすから、技術的にはこの選択の方が賢明で確実。

(参考1)「弾道ミサイルの弾頭部に翼をつけて、極超音速の滑空で着弾させれば、敵の迎撃ミサイルを掻い潜れる」原理を応用したのが、滑空飛翔体。ロシアは、RS-28(NATOコード名は「サタン2」、射程1万㎞以上)弾道ミサイル等の弾頭部に「核兵器塔載のアバンガルド(YU-71/YU-74)」を塔載して発射し、その後、スクラムジェットエンジンのアバンガルドにマッハ20以上の飛行をさせ、低空で敵目標に着弾させるシステムの実験を、2018年に成功させた。2019年には生産体制に入り、2019年12月には、第一号機を実戦配備したと、プーチンは豪語している。

 なお、この低空着弾のため、高高度を狙うイージス・ミサイルでは撃ち落とせない。一方、THAADなら迎撃可能。日本は、THAAD8セットの導入配備が急がねばならない。

(参考2)米国も2020年3月、トランプ大統領が「super-duper(もの凄い)」と燥いだように、マッハ17の極超音速滑空体の実験(ハワイ・カウアイ島)に成功した。ただ、ロシアや中共のミサイル防衛の実態はお粗末だから、米国のこの極超音速滑空体は宝の持ち腐れになるかも知れない。が、核兵器の軍拡競争は安定的な戦争防止効果を持つので、これには絶大に貢献する。

3、中共の度重なる台湾領空侵犯は、中台間の国境線を認めない作戦の実行。尖閣領海侵犯と同じ侵略準備のやり方。

 2020年6月11日、米国のC-40A(兵員輸送機)が台湾の西側・陸地上空を飛行して、台湾は“中共の領域ではない”と警告した。米国が南シナ海のど真ん中を、わざとB-52H戦略爆撃機を遊弋飛行させるのも、南シナ海は中共の領域でないことを警告するためである。

4、米大統領が対台湾「武力行使権限」を持つべきは当然。この法律の立法を米議会は急げ!

 このほか米国は、米陸軍をして台湾に上陸阻止基地づくりの指導を行わせよ。米国原潜の緊急補給・修理の海底基地を花蓮に建設させよ。台湾の潜水艦部隊も、この潜水艦専用軍港の花蓮に移動せよ。米国のあいまいな《一つの中国政策》は、今や現実から乖離した化石。今すぐ廃棄せよ。

 クェーカー教徒で“戦争恐怖症の重患”ニクソン大統領が発出した、馬鹿げた上海コミュニケ(1972年2月)は、台湾海峡の藻屑にしなければならない。中共が第一列島線/第二列島線を明示すること自体、上海コミュニケ違反の“西太平洋における海洋覇権”ではないか。上海コミュニケ廃棄こそ、上海コミュニケの精神に合致する。

南シナ海“侵略”に抗し「航行の自由」作戦の米国空母に「(模擬)核弾頭投下」の中共

1、中共は、2020年8月26日、核弾頭を模擬弾頭に替えた弾道ミサイル「東風21号D型」を二発、「東風26号B型」を二発、南シナ海に投射した。これは、同年7月4日および7月17日、米国の原子力空母二隻「ロナルド・レーガン」「ニミッツ」の二ヶ空母打撃群が、B-52H爆撃機一機とともに、同海域で演習をしたことへの報復恫喝。また7月21日、B-52H戦略爆撃機2機が再び南シナ海上空を遊弋飛行した。

 なお、この「東風21号」「東風26号」は、海上標的攻撃用に改造されたもの。つまり、中共は、米国に対して南シナ海は“中共の内海”だから、此処への進入は、中共の核攻撃の標的となるぞ、と脅したのである。核恫喝の最たる典型。

2、2020年4月18日、中共は、2012年に南シナ海に新設した「海南省三沙市」の下に、八年を経て南沙と西沙の二つの行政区を設けると発表した(注3)。西沙区庁は永興島(ウッディ)に、南沙区庁は永暑島(ファイアリー・クロス)に置くようだ。

3、中共が「南シナ海」領有の法的根拠を一切有さないことは、ハーグの仲裁裁判所の判断(2016年7月)において明らか。が、始皇帝の秦とフビライ帝の元を合体させた“侵略帝国の再来”中共は、国際法上の非法・非道に意を介する気配すら見せない。南シナ海の海上も海中も中共の領域territoryにして、此処への米国の海軍艦艇と空軍機の進入を排除せんとする中共の狙いは、一体全体何だろう。

 この解は、スパイクマンに尋ねるのがベストであるように思う。

4、「米国地政学の父」で「国際政治学の父」と尊敬されているスパイクマン博士は、全米が日本のパール・ハーバー奇襲攻撃で激昂の炎に包まれている1942年春、太平洋戦争に米国は日本と海軍同盟を締結せよと提唱した。その理由として西太平洋へのロシアと支那の大膨張による対米脅威を米国政府と国民に警告したのだった。

 具体的には、「アジア地中海」と命名した南シナ海を支那が海軍力と空軍力で制海し「内海」化するから、東南アジア諸国はむろん日本を含めて、シナの支配下に入るのは不可避だとした。そればかりか、米国も西太平洋から排撃的に追放されると、今日の米国の「対中」劣勢情況を八十年前に完璧に予見したのである。一部、引用する。

「四億五千万人を抱えて、近代化し活気に満ち軍事力強化にひた走るチャイナは、日本だけを脅威するのではない。【アジア地中海】(=南シナ海から豪州までの海域)における米国海軍力への脅威になる。チャイナは、この【アジア地中海】」の沿岸部全体を支配する大陸型パワーとなるだろう」

「チャイナの軍事力が強大になればなるほど、アジアにおいて、その経済力が浸透し、必ず政治的強制力を揮うに至る。この【アジア地中海】の海域は、米英日のシー・パワーでコントロールされる時代は去り、チャイナのエア・パワーがコントロールする時代の到来が確実に予想される」469頁。

 中共を南シナ海から排撃して、日米豪英印などによる、西太平洋に共存の秩序を回復する策を発見するにも、この偉大な古典たるスパイクマン『世界政治と米国の戦略』を拳々服膺することから始めるほかないだろう。

 『世界政治と米国の戦略』は大著でこれを正しく読むには、スパイクマン学の入門指針が必要であろうと思い、2016年夏、ガイダンス的な小論をまとめた。本稿の末尾に、それを別紙として掲載しておく。三分割した本稿とともに、熟読して頂ければ幸甚である。

核戦力「大増強」に爆走する中共&露を牽制する米国の核は“中距離の北海道配備”

 中共の急激に強化されつつある対台湾/対「南シナ海」の侵略態勢を抑止し転覆するに、最も確実な方法は、中距離核戦力(INF)の配備である。だが、西太平洋の地理は、西欧とは異なり、INFを配備できるドイツ/英国/ベルギー/オランダ/イタリア等の国家群が存在しない。現在、西太平洋で米国のINF配備を受け入れる国家は日本と台湾だけ。フィリッピンは反米大統領が居座っているし、インドネシアは中共の属国化傾向が著しい。

 だが、愚痴を言っても始まらない。米国も日本も、中共の「中国は一つ原則」を完全に否定すべく、中共との全ての「条約、協定、コミュニケ」を破棄しなければならない。日本の場合、日中平和条約の破棄を明日にでもすべきである。尖閣の日本領海侵犯の頻度は、通常の二国間の正常な状態とは程遠い。この異常な状態で日本が平和条約の破棄を通告しないのは、日本国が主権国家である意識が腐食して消滅しているからだ。田中角栄の日中共同声明(1972年9月)も破棄せねばならない。

 さらに、台湾情勢と南シナ海情勢の戦争前夜的な緊迫度において、対中経済断交の決断は秒読み段階。少なくとも、RCEPとAPECからの離脱は、明日を含め、可及速やかに決行しなければならない。この「RCEPとAPECからの離脱」と一緒に、在日の中共留学生を一人残らず国外に追放し、また中共系シナ人が関与した日本国土内の不動産購入を全て禁止、既に購入している物件は日本政府がすべて買い戻す最小限の国家安全保障政策を断行せねばならない。

 米国の西太平洋配備予定の対中「本土攻撃」INF──新型の巡航ミサイルと新型の弾頭ミサイル──の適地的な配備場所は、北海道と四国と沖縄と台湾の四か所か。特に北海道は、これらINFの最高の配備適地である。日本は日本の方から米国に対して、かつて1981年のドイツや英国の如くに、「急いで配備して欲しい」と懇願すべきである。

1、アンデシュ・ハンセン『スマホ病』、新潮新書。

2、表2;中共以外のトランプ外交の通信簿

3、『朝日新聞』2020年4月21日付け。

(2020年12月16日記)

 

(別紙)

“スパイクマン地政学のリバイバル”を、日本は急がねばならない

筑波大学名誉教授    中 川 八 洋

2016年7月26日記

 ニコラス・スパイクマンの名は、国際政治学の学徒にとって、畏れ多い思いが先に走るようなレジェンド。不朽の大学者である。なぜなら、戦後世界の国際政治学の源流となった“米国の国際政治学”は、1942年刊行のニコラス・スパイクマン著『世界政治と米国の戦略』が原点だからだ。アメリカ知識人の中には、ニコラス・スパイクマンを“国際政治学の父”と呼ぶものも多い。

 しかし、戦後の日本では、ことさらにスパイクマンを排撃して、米国の国際政治学ひいては米国の外交政策の主流を排斥してきた。米国籍を取得したオランダ人のスパイクマンが“親日・反露”であることにおいて“親露”が基調であった戦後日本の学界の忌憚に触れたのである。

 例えば、トルーマン大統領によって1947年から本格化する“米国の対ソ封じ込め”と言えば、日本ではどういうわけか、ジョージ・ケナンがその理論家であるかに間違って思い込んでいる。しかし、スパイクマンこそ“封じ込めのゴッドファーザー godfather of containment”と呼ばれているのであって、ケナンではない。封じ込め政策のケナン提言には、地政学に関する知見や視点が欠如している。ケナンのそれには、スパイクマンとの学的な継承関係が全くなく、重なる部分もない。

 スパイクマンの『世界政治と米国の戦略』は、1941年12月7日(首都ワシントン時間)の日本のパール・ハーバー奇襲攻撃からほぼ三ヶ月後に出版された書物だから、その内容が圧倒的に高いレベルでなければ、通常であれば総スカンを喰らってお蔵入りになっている。なぜなら、第二次世界大戦後の世界秩序を構想するスパイクマンは、この戦争後に米英日の三ヶ国海軍同盟によるロシア包囲(encirclement、備考)を世界平和維持の秩序機構とするため、日本海軍を壊滅的敗北しないよう、米国政府と米国国民に進言しているからである。   

(備考) containmentではない事に注意せよ。

 パール・ハーバー奇襲に激昂して「日本を骨の髄まで叩け!」の米国世論に抗して、“過剰に偏頗な親日”と受け取られかねない、このようなスパイクマンの戦争後構想でありながら、スパイクマンの『世界政治と米国の戦略』は、米国政府に極めて強い影響力を与えた。ある国際政治学史の研究者は、「スパイクマンの『世界政治と米国の戦略』ほど、国際政治学分野の著書の中で突出して広く読まれた本は他になかった」と述べている(注1)

第一節 今なぜスパイクマンなのか、今なぜ地政学なのか

 スパイクマンは、第二次世界大戦は日独の全面敗北で終了する、だから問題はその戦争後だと考えた。第二次世界大戦後に「ハートランド」のロシアが膨張し、その勢力拡大は、太平洋・大西洋を越え、南北アメリカ大陸(当時は、「新世界」とか「西半球」とかの言葉で表現された)あるいは米国にまで必ず伸びて、いずれは南北アメリカ大陸も米国さえも、ロシアの膨張と魔手から「聖域」ではありえず、「ハートランド」の侵略を必ず受けるとスパイクマンは警告した。

 実際にもソ連は、1959年にキューバにカストロ共産政権の暴力革命を成功させ、ベネズエラを“反米親ソ国”に洗脳・改造し、カリブ海制覇への拠点づくりも達成した。1942年のスパイクマン地政学洞察は、僅か十七年後には的中し現実となった。不世出の大学者には未来が見える。“地政学の泰斗”スパイクマンの場合、このように、世界地図と地理から未来を透視したのである。

 また、ソ連は、1950年代末から、米国を標的とする核弾頭搭載ICBMを大量に配備し、「ハートランド」は距離的に米国本土(北米大陸)から遠隔にあるはずという、かつての常識は一瞬で雲散霧消した。1942年のスパイクマンは、ICBMなど知らないのに、太平洋も大西洋も、米国をユーラシア大陸から遠距離に隔ててくれはしないと考えていた。何故なら、スパイクマンは、太平洋や大西洋とは、北米大陸をユーラシア大陸に結合させる高速道路であり、陸続きよりはるかに危険だと見做していた。地理という不変の要素への天才級洞察力は、未来の兵器の発達や変遷を予見せずとも、地球規模の軍事態勢を優先的に決定するのは“不変の地理”だと見抜いていた。

 スパイクマンと結論は同じだが、アレン・ダレス(戦後米国の初代CIA長官)やバーンナム(注2)の「ソ連の侵略と膨張は、米国を聖域とはせず、全世界に及ぶ地球規模となる。第二次世界大戦で一極 unipolar の頂点となった米国は、“世界の警察官”として直ちに対ソ“巻き返し防衛”を基軸とした対外政策/世界戦略を第一とすべし」の考察と主張は、「反共・反ソ」のイデオロギーからである。米国の戦後対ソ政策や世界戦略は、大統領によって強弱の違いをみせるが、基本的には、マッキンダー/スパイクマンの地政学(地理)を基層に、「反共・反ソ」イデオロギーをその上層に被せる二頭馬車だったのである。

 ここで留意すべき事柄がある。「反共・反ソ」であるが故にアレン・ダレスやバーンナムの「ハートランド」は“ソ連”。が、イデオロギー抜きの地理に“国際政治を透視する高性能レントゲン”を発見したスパイクマンにとって、「ハートランド」はあくまでも“ロシア”。学術的にはスパイクマンを“反露”に分類しても、“反ソ”には括れない。

 ソ連が崩壊した1991年12月をもって「ハートランド」はロシアに回帰し今日に至る。この新しいロシアは、共産主義イデオロギー抜きで世界政治の“パワー・ポリティクス”を観るスパイクマンが考察した、当時の「ハートランド」そのものだろう。スパイクマン「ハートランド=ロシア」論をリバイバル(復活)させることが、今ほど理に適っている時代はない。

無限の海洋覇権拡大に全力疾走するチャイナ。日本列島南半分の占領まで計画しているのか?

 今、日本は、国際情勢を見えるよう自己再生する鍛錬をする緊要性に迫られている。そうしないとすれば、軍事態勢的に日本を断崖絶壁に追い詰めている、世界情勢の劇的な悪化が見えない盲目状態から脱し得ないからである、日本人に、この全盲の現状から、視力6.0を期待するつもりはないが、少なくとも視力1.0程度で国際情勢が見えるようにしなければならない。その方法は、マッキンダー/スパイクマン地政学を日本人の頭に叩きこむのが最も確実で効果覿面のように思われる。

 例えば、チャイナ(備考)は、尖閣諸島の東支那海だけでなく、南支那海からインド洋まで、露骨な海洋進出、明らかに海洋覇権を目指した動きを過敏さを伴って加速しているが、これを日本国の国家安全保障において観察し分析する能力を形成するには、英米系地政学ほど有効なものはないからだ。それはともかく、西はインド洋、東はグアムまで、チャイナが急ピッチで進める海洋覇権の現実を知ることから、まず始めよう。

(備考)世界は「支那」と国名を正しく呼称する。が日本だけは、これを差別語としてマスメディア界と出版界では用いることができない。已むを得ず、本稿では英語のカタカナ表記「チャイナ」を用いる。

 最初に、インド洋における“真珠の首飾り”について。これは、インド洋で、チャイナ海軍艦隊が自由に使用できる軍港三港をつないだ形が首飾りに似ていることからの命名。具体的には、インドを包囲する、バングラディッシュのチッタゴン/スリランカのハンバントタ/パキスタンのグワダルの三港を結んだ線の事である。これらチャイナが自由使用できる三港の整備拡張の費用のほとんどを、チャイナが負担した。これによって、チャイナ海軍は大艦隊のインド洋遊弋ができる直前にある。

(図1を挿入)

 この結果、インド海軍を牽制してその行動を制約できるばかりか、インド洋を通過する日本の石油シー・レーンを脅かす事がいとも簡単にできる態勢が完成する。米国第七艦隊はチャイナ海軍に対して、1990年代までの圧倒的優勢 supremacy にあるわけではなく、インド洋/南シナ海を通過する日本の石油シー・レーンの安全は、崩壊・自壊へと、悪化以上の最悪事態に着実に転落している。

 まさに、マッキンダー/スパイクマン地政学に言う、「ハートランド」のランド・パワーが大海軍力を有した時、地球上のいかなる国家も独立を維持することはできないのである。なお、チャイナについて、マッキンダーもスパイクマンも「ハートランド」だとはしていないが、“大規模海軍力を背景にいかなる規模の地上兵力を沿岸から投入しても占領できないユーラシア大陸の中枢部”という定義において、チャイナもまたロシア同様に「第二ハートランド」と定義するのが正しかろう。実際にも、日本は1937年から45年までの八年間、シナ大陸で蒋介石の国民党政府軍を制圧しようとしたが、線と点だけで面の制圧占領は全くできなかった。

 チャイナの世界支配という野望は、“真珠の首飾り”でインド洋の海上覇権を目指しているだけでない。日本の南に位置する南支那海は、今や深刻で、チャイナの3000㍍級滑走路のための人工島づくりは続々と完成しており(表1)、事実上、南支那海は“チャイナの内海”と化してしまった(図2)。スパイクマンの憂慮する通り、シー・パワーを兼ねた「ハートランド」が海洋覇権hegemonyを確立することはいとも容易いのである。

表1;南シナ海における、急ピッチの中共の軍事化情況(2016年2〜3月時点)

      (図2挿入)

 チャイナは、インド洋(特に、マラッカ海峡とスリランカを結ぶ線の北にあるベンガル湾全域)/南支那海/東支那海に海洋覇権hegemonyを樹立するだけではない。それより東の、東京−グアム—パプア・ニューギニアの線まで、海洋覇権を達成すべく全力を挙げている。それは机上の計画ではなく、フル稼働で実行中の現実である。

 図3の第二列島線は、グアムからインドネシア方向の西に曲がっているが、これは今日では変更されている。経度に沿って南のポート・モレスビーに繋がっている。つまり、東京−グアム—ポート・モレスビーの線である。それはまた、豪州への軍事侵攻を可能とする態勢づくりがあらわとなっている。

       (図3挿入)

 この第二列島線の北端は東京が終点ではなく、東京−新潟で日本列島を折半して、新潟から北朝鮮の羅津・図們江に結ばれている。

 第二列島線までを“チャイナの内海”化するには、第二列島線を東支那海と一体化する必要があり、大隈半島の南から台湾までの沖縄ラインを横断的にぶち切る四本の航路(シー・レーン)を作る目的はこれ。この四本──大隈海峡/横奄水道/宮古水道/与那国島西水道──を図3に示しておく。

 このためにチャイナは今すでに、種子島/屋久島から沖縄そして石垣島/宮古島までのすべての日本の島を領有する野望を実行せんと、それを開始した。現在の尖閣諸島への上陸寸前情況は、その前哨戦的なほんの一端であって、尖閣でチャイナは終わりにすることはない。2016年6月15〜16日、チャイナ情報収集艦(東調級、満載排水量、約6000㌧)が口永良部島の西から屋久島の南を横切る領海侵犯をしたが、これこそ、この四本(=大隈海峡/横奄水道/宮古水道/与那国島西水道)のシー・レーンづくりの嚆矢に他ならない。

無法の侵略やりたい放題のロシアの再膨張。“動乱と戦争の世紀”に回帰した21世紀の地球

 2008年8月、ロシアがグルジアに侵攻して、南オセチアとアブハジアを軍事力でもってグルジアから取り上げロシアに編入した。この世界史的侵略事件を、日本はほとんど重大視しないというより、完全に無関心だった。なお、2008年8月は、米国のブッシュ大統領が任期満了を目前にレームダックになった時で、ロシアは侵略と膨張をするに、米国が“弱い”タイミングを間髪入れずに選択する。

 また、ロシアの南オセチアならびにグルジア領内侵攻の侵略こそ、“(冷戦の終焉である)ポスト冷静の終焉”だった。1989年12月、マルタ島でゴルバチョフ(ソ連共産党書記長)が勝手に言い出したロシア製の新語“冷戦の終焉”は、十九年をもって、このロシアによって幕を閉じた。それは同時に、二十一世紀が中ロの侵略し放題の“戦争=熱戦の世紀”へ再突入したことを意味する。

 この2008年8月、日本人で、“冷戦の終焉”は終焉し熱戦の時代に突入したと考えた者は一人もいなかった。日本人は地政学的視点はむろん、国際政治のイロハ的教養すらすっかり喪失した。日本人は“度外れの国際情勢音痴”に劣化したのである。正確には、日本人は、もはや日本国の国民ではなく、世界に生きる意志と能力を去勢された“生物学的なヒト”に堕してしまっている。

 ナチ・ドイツがロカルノ条約に違背してラインラントに進駐し(1936年)、イタリアがエチオピアに侵略し(1935〜6年)、日本が“親日&反共”蒋介石の国民党政府に戦端を開き(1937年7月)、ナチ・ドイツがオーストリアを併呑した(1938年3月)、この流れが確度100%で第二次世界大戦に至らしめたが、この歴史の教訓が今の日本人の脳裏にはからっきし存在しない。

 南オセチア/アブハジア侵略併呑に続く、ロシア侵略の第二弾は、クリミヤ半島を一気に軍事占領した2014年3月だった。これほど大胆なロシアの侵略に世界は唖然としたが、ロシア民族は領土拡大と“国際孤立”の二者択一の場合は、躊躇うことなく領土拡大を選択する。

 プーチン大統領の対ウクライナ強硬路線の実行は、米国オバマ大統領が、化学兵器を使用したシリア・アサド政権への軍事制裁を世界に公言しながら中途で投げ出し、そればかりか、その後始末をこの化学兵器をシリアに売却した“アサドの共犯者”ロシアに丸投げまでした(2013年8月、注3)、オバマ米国大統領の異常な“怯懦のチェーン”を観察し軽蔑して、決心したといわれる。

 シリア独裁政権アサドに対する軍事制裁を自ら世界に公約した直後に、この公約を世界の目の前で撤回したオバマ大統領による“臆病風で敵前逃亡”という米国の失態(2013年8月)は、ロシアをしてウクライナ侵略を決意させただけではない。シリアがロシアの衛星国に転落する決定打になった。

 シリアのロシア衛星国化とはまた、ポスト冷戦後初の、中東におけるロシア橋頭堡の第一号であった。それは、ロシア海軍の地中海への再進出であり、ロシアが中東攻勢と地中海へのロシア海軍力平時遊弋という冷戦時代への回帰を成功させたことに他ならない。2008年8月から2014年3月にかけての“黒海のロシア準・内海化”と併せて考えると、ロシア民族の再膨張文化の慣性に高エネルギーの加速器が取り付けられたようなもの。マッキンダー地政学は、「ハートランド」=ロシアは中東を制し、アフリカに覇権を打ち立てるとしたが、その方向へとロシアはベクトルを強化加速している。

図4:黒海の準・内海化に成功したロシアの再膨張(2008年〜2014年)

 そして、マッキンダーが懸念した、「ハートランド」のアフリカへの進出とアフリカ覇権の樹立を、「第一ハートランド」のロシアに代行して、「第二ハートランド」のチャイナが全力疾走中。ロシアとチャイナのこれらの急激な動向を合体して省察すると、マッキンダーとスパイクマンが憂慮に憂慮した“最悪事態”が、恐ろしいほどのスピードで到来している事に愕然とならざるを得ない。

第二節 21世紀世界秩序は、“叡智の宝庫“スパイクマン地政学に学べ

 今や古典であるスパイクマンの名著『世界政治と米国の戦略』を再解説して流布したいと思い立った理由の第一は、2014年の空母「遼寧」の就役を始め、2008年以降の中ロの大軍拡と領土膨張に、日本の国家存亡の深刻な危機を素直に感得し、日本政府と日本国民に真面目に国防を覚醒させるに、その指針として差し出す“この良書一冊”にスパイクマンこそベストだと考えたからである。

 第二の理由は、とても“超大国”米国大統領とは思えぬ、八年間に及ぶオバマの異常な“非・米”的な外交(2009年1月〜2017年1月)から脱却し、本来の米国外交に立ち戻らせる手っ取り早い方法として、米国政府高官やアメリカ知識人が緊急に読むべき本は何かと考えた時、スパイクマンの『世界政治と米国の戦略』以上の書物はないと確信したからでもある。

 必然的に世界戦略となる“超大国”米国の対外政策は、オバマによってズタズタに引き裂かれた。この由々しき筆頭は、自由社会の主要国に“核の傘”を提供することによって、米国の世界ナンバーワンの地位が維持され、同時に安定的な世界秩序が維持されてきたのに、オバマの核廃絶への狂気に近い偏執は、このシステムの(弱体化以上の)自壊をもたらすに至った、この事態に尽きるだろう。

 次に、オバマは、米国大統領としてシリアの化学兵器使用に対する軍事制裁を世界に公約宣言しながら、その直後に「敵前逃亡」的に中断した。かくも虚言を厭わぬオバマの臆病性は、永年培われてきた米国に対する世界の信頼を一気に失墜させた。また、“世界の警察官(=米国)は、弱し”のシグナルとなり、ロシアのクリミヤ半島侵略決行も、中東においてISほか狂暴かつ残忍なテロリズムが爆発的に蔓延したのも、2013年8月のオバマ大統領の、“米国は、今後はいっさい対外軍事制裁の行動はしない”との、怯懦を絵に描いた“軍事介入の凍結”主義の広言が誘発したものである。

 米国の代名詞でもあった“勇気あるアメリカ人”とは真逆の、オバマの無責任と怯懦を背景にした不介入主義はまた、米国国内の世論に好ましくない負の影響を大きく与えた。言うまでもなく、1930年代の「アメリカ・ファースト 国内問題優先主義」を復活させた。「アメリカ・ファースト」は不介入主義(孤立主義)と表裏一体だから、1945年夏に第二次世界大戦の終了と同時に米国が対外政策の中軸に選択してきた“世界の警察官・米国”に、オバマ大統領こそ、戦後七十年間を経て引導を渡したことになる。

“勇者の美徳”「攻撃offenseこそ、防衛defense」が、スパイクマン地政学の神髄

 スパイクマンは、ルーズベルト大統領とは思想も目的も異なるが、米国民から(1930年代の)「アメリカ・ファースト」を一掃した功績では、ルーズベルト大統領とは双璧。だが、ルーズベルト大統領は、ヒトラー・ドイツと東條・日本を打倒した後、スターリンとの蜜月で米国が世界秩序を主導するという、自由社会にとっても米国の国益にとっても逆立ちする戦争後構想を巡らせていた。

 一方、スパイクマン博士は、ルーズベルト大統領とは180度逆に、戦争後に「ハートランド」のロシアを包囲encirclementすべく、米国はリムランドの日本との海軍同盟を結ぶべしと考えた。これについてはドイツに対しても同様であった。なぜなら、スパイクマンは、ユーラシア大陸が「ハートランド」一ヶ国に支配されればもちろんだが、ユーラシア大陸がハートランドを中心にした諸パワーの糾合であれ連合であれ、必ず北米・南米に侵略を開始し、北米・南米はユーラシア大陸のパワーから包囲されて自由と独立を維持できないと考えた。それが、195頁の図である。

   (『平和の地理学』第51図の上をここに挿入)

 ではどうするか。スパイクマン博士は、“攻撃offenseこそ防御defense”を信念とする勇者の美徳を重視して、北米(米国)の方が先制的にハートランドを包囲すべきであると考えた。それが、180頁の図である。

   (『平和の地理学』43図と44図を、ここに挿入)

 この考えは、かつてウィルソン大統領が国際連盟を考案したような、米国が戦争後の世界秩序の構築を構想し、米国はそれを通じて世界に貢献しようというものとは本質的に相違する。スパイクマンは、米国は、米国自身の国防こそを真っ先に考えるべきだと考える。すなわち、“国防第一 アメリカン・ナショナル・ディフェンス・ファースト”である。

 要は、スパイクマンは、世界の平和秩序は米国の国防が盤石に安泰となれば付随的に到来するから、米国民が共有する一般的なコンセンサス“米国は太平洋・大西洋でユーラシア大陸から遠隔で安全なので、米国の寛大な好意として、世界平和秩序維持に犠牲的貢献をしてあげよう”の、「介入主義/国際主義」は、米国が近未来に直面する現実の脅威を無視した甚だしい本末転倒だと、論難的に排除したのである。

『平和の地理学』収録の図51枚はスパイクマンの作図。文は“反スパイクマン”が露なモスクワ製

 『平和の地理学 The Geography of the Peace』(1944年刊)は、地図はすべてスパイクマン製だが、文章/記述はすべて、スパイクマン博士のイェール大学時代の女秘書の作。スパイクマンが死没した1943年6月の後、この女秘書が自己流で、博士の机の上に遺された図および講演メモなどをまとめたのであって、スパイクマンは一文字も書いていない。むろん、この本のタイトルも、この女秘書の作である。なお、『平和の地理学 The Geography of the Peace』の邦訳タイトルは、『平和の地政学』。

 『平和の地理学』を、『世界政治と米国の戦略』を熟読した後に読むと、誰でも「えっ!」と首を傾げざるを得ない、異常な齟齬や改竄・歪曲が余りに多い。しかも、この齟齬や改竄・歪曲は、スパイクマン地政学の最核心部分で行っており。悪意があらわである。とすれば、『平和の地理学』の図の方は大切に学ぶべきものだが、記述/文の方は軽々に信用してはならぬと警戒するのは、スパイクマン学徒なら最小限の心得。

 例えば、『平和の地理学』の第四章にある節「ユーラシア政治のダイナミック類型」で、あからさまな改竄記述がある。

「マッキンダーがごく最近発表した論文では、リムランドの抜きん出た重要性と、この地域でのドイツの再台頭を防ぐため、イギリス/ロシア/アメリカが協力し合う必要性を認めている」(原著44頁、この「ロシア」は、マッキンダーが「フランス」と記述していたもの。女秘書の恐ろしい改竄)

 マッキンダーは、『フォーリン・アフェアーズ』誌(1943年7月号)で、米英フランスの三ヶ国同盟を提唱した。ところが元・女秘書は、この「フランス」を「ロシア」に摩り替える改竄をしている。マッキンダーもスパイクマンに酷似し、ドイツの敗北後に台頭してくるソ連=ロシアの大膨張から英国を守るべく、英米仏三国同盟を創り、北大西洋を“英米仏の内海”(「ミッドランド・オーシャン」)とする、自分の地政学の集大成を発表したのである。

 NATOは、マッキンダー/スパイクマン地政学の成果(期待)の一つとされるが、この元・女秘書の改竄に従えば、ロシアがNATOのメンバーで、西ドイツはメンバーでなくNATOの想定敵国になる。荒唐無稽も度が過ぎる改竄である。

 そもそも、ロシア(ハートランド)の膨張から英国をどう守るかの英国防衛が、マッキンダーが生涯をかけて創り上げた地政学の目的である。その主敵である「ハートランド」のロシアと、どうして英国が同盟をするのか。こんな改竄を平気でなす恐ろしい女秘書には、心底から戦慄せざるを得ない。もう一例。『平和の地理学』の末尾は、こう結ばれている。

「リムランド域で、諸パワーが統一体を形成しないよう、米国が諸国家と協力し合うことは、第二次世界大戦後の、戦争後における米国の国益である。ロシアと英国という大国もまた、ヨーロッパやアジアにおいて覇権国出現を安全保障上の脅威だと見做している。米ロ英は、それぞれ単独では世界とは対処できない。米ロ英が協力することが、三ヶ国自身にとっても最高の利益となる」(原著61頁、スパイクマンなら「フランス」と書いたはず。女秘書が「ロシア」と改竄)

 スパイクマンの主張は、この『平和の地理学』とは180度逆。ロシアは、「ハートランド」という永久不変の地理の故に、北米(米国)にとって永久不変に脅威国で恒久に続く敵性国家である。一方、ヒトラーのドイツと東條の日本は、北米にとって、ヒトラーと東條がリーダーである間だけの一時的な敵で、それを叩き潰した後は、「ハートランド」を包囲するに米国に不可欠な同盟国である。このスパイクマンの主張を思い出せば、『平和の地理学』がモスクワ製であることは直ぐ納得できよう。

 ところで、タイトル『平和の地理学』の二文字「平和」も、スパイクマンらしくない“非スパイクマン語”。スパイクマンのキー・ワードは、パワー power、パワー・バランス balance of power、防衛 defense、包囲 encirclement、侵略 invasion・・・などである。「平和 peace」は、スパイクマンの著作には稀にしか使われない語彙。もしスパイクマンらしい表題『北米防衛の地理学』などにしておけば、スパイクマン博士に対する元・女秘書の(スパイクマン地政学を全面改竄する敵国人殺し屋以上の)犯意は、もっとうまく隠せただろうに。 

(備考)以上、「『平和の地理学』は、スパイクマン博士の思想とも趣旨とも異質で、顕著に対極的ですらある」と多少長々と指摘した。私の意図は、日本の学者の誰かが、『平和の地理学』に収録された、スパイクマン博士が自ら作図した図1〜図51の全てを、スパイクマン博士自身が予定していただろう『世界政治と米国の戦略』改訂版に移動挿入して全訳し、『平和の地理学』の方を完全ボツにして欲しいと願うからである。

21世紀に危機に陥る日本の防衛環境を予見し憂慮する、最高の親日家スパイクマン博士の炯眼

 すでに七十四年前となったスパイクマン著『世界政治と米国の戦略』を、(全部ではなく)終章だけだが、私は座右の書としてかなり頻繁に捲っている。終章に目を通すと、感動と緊張とが体を駆けめぐり、現在の2016年にスパイクマン博士が蘇り、大声で日本に対して「ロシアの侵略は近いぞ!」「チャイナ(中共)に侵略されるぞ!」と旬日に迫る危険を警鐘乱打しているように思えてならない。

 スパイクマンは、こう言っている。

(「リムランド」を「ハートランド」から防衛して世界秩序を維持するために)米英日三ヶ国のシー・パワーが同盟して海の覇権を獲得しても、それに対抗すべく、(中ロという)巨大なランド・パワーが軍事力を結合させる同盟をするのは不可避だろう」

「北米大陸という島(=米国)とユーラシア大陸の沖合の二つの島嶼(=英国と日本)の同盟は、世界秩序を制するに十分ではないし、英日の両国を極度な前線対峙に晒すだけだろう。ハートランドが陸上配備する、対艦・対地の長距離攻撃航空機というエア・パワーを保有する時代にあっては、シー・パワーがいかに同盟しても世界を支配することはできない」459〜60頁。

 二番目の引用文は、第二次世界大戦での「エア・パワー」の出現は、ユーラシア大陸の「ハートランド」の膨張力を一層強力にしたから、米英日の「シー・パワー」で「ハートランド」の膨張的侵略を“包囲 encirclement”で阻止することは困難になってきた、との指摘である。要は、スパイクマンは、ハートランドの沿岸部にある(中ロの)空軍基地を先制的にことごとく殲滅する軍事力を日米は持て、と進言している。また地図43に示した、ハートランドに侵入できる強力な陸軍兵力投入力(プロジェクション・パワー)が無ければ、ハートランド包囲は可能でないとも、スパイクマンは嘆じている

 そればかりか、“21世紀のハートランド”の「ランド・パワー」は、「エア・パワー」に加えて、強大な「シー・パワー」を持つに至った。先述した通り、チャイナは南支那海をほとんど“制海” sea control“に近いレベルで、“支配 rule”しつつある。インド洋まで、その海洋力は伸びている。スパイクマン博士が憂慮する以上に、2016年の現実では、日本の命運はすでに亡国のレッド・ラインを超えた。

 もう一つ、2016年の日本に告げる“天の声”のごときスパイクマン警告を取り上げる。彼は、こう言う。

「四億五千万人を抱えて、近代化し活気に満ち軍事力強化にひた走るチャイナは、日本だけを脅威するのではない。【アジア地中海】(=南支那海から豪州までの海域)における米国海軍力への脅威になる。チャイナは、この【アジア地中海】」の沿岸部全体を支配する大陸型パワーとなるだろう」

「チャイナの軍事力が強大になればなるほど、アジアにおいて、その経済力が浸透し、必ず政治的強制力を揮うに至る。この【アジア地中海】の海域は、米英日のシー・パワーでコントロールされる時代は去り、チャイナのエア・パワーがコントロールする時代の到来が確実に予想される」469頁。

 南支那海の南沙諸島でチャイナの3000㍍滑走路が三つも完成したのを見ると、まさにチャイナのエア・パワーが「アジア地中海」(備考)に覇権を樹立する日が明日にもやってこよう。日本は戦後の海軍小国路線を転換しようとはせず、シー・パワーになろうともしない。日本が最低でも、チャイナの海軍力を凌駕する海軍力を緊急に保有しないとすれば、米国の海軍力は、グアム以東に追放され、日本はチャイナの属国を選択することになる。

(備考)スパイクマンの「アジア地中海」は、台湾以南の南支那海戦域に豪州以北の海を加えた海域のこと。

スパイクマンの経歴と著作

 ニコラス・スパイクマンは、1893年にアムステルダムで生まれたオランダ人。海外ジャーナリストや外交官補を数年間経た後、1920年、米国カリフォルニア大学に留学。1923年にジンメル社会学の研究で博士号取得。1925年、イェール大学に教職を得、1928年に正教授(35歳)。この時、米国国籍取得。1935年にイェール大学国際関係学部長、また同時に同大国際問題研究所長(初代)

 国際政治学の著書は、ここに抄訳した『世界政治と米国の戦略』一冊のみ。『平和の地理学』は、図以外は、元・女秘書の作品。スパイクマンの学的主張と異なる。国際政治学関係の論文は、学会誌『The American Political Review』の四本と学会誌『American Geopolitical Society』の一本がある。1942年末、薬物中毒と目される病で床に臥し、半年後の翌1943年6月死没。享年49歳。女秘書によるコーヒーへの毒物混入説が当時の根強い噂。女秘書は警察からかなりの捜査を受けたようだが、逮捕・起訴されることはなかった。

 

1、Harold Sprout, Foundations of International Politics, D.Van Nostrand Company, p.111.

2、戦後転向して、スパイクマン博士を「わが師」と尊敬するバーンナム James Burnham は、『Containment or Liberation?』(1953年)『The Coming Defeat of Communism』(1949年)『The Web of Subversion』(1954年)『Suicide of the West』(1964年)などの古典的名著を遺した“ネオコンの元祖”知識人の一人である。しかし、これらバーンナムの著書は一冊を除き翻訳されていない。

 なお、『Containment or Liberation?』は、ジョージ・ケナン批判として有名。ケナンの作品が多く翻訳され、バーンナムのが翻訳されないのは、日本の国際政治学界が大きく偏向しているからだろう。翻訳された『The Web of Subversion』の邦訳名は、『赤いくもの巣』(日刊労働通信社)

3、シリアの化学兵器使用に対する軍事制裁をいったん国際公約しながら、怯懦から「逃亡」したオバマ大統領の2013年の経緯は以下の通り。

 2013年6〜8月、アサド政権はロシア製サリン(神経ガス)等を反体制派の拠点に投下。一般住民が数百名から一千名以上が殺害された。これに対してオバマ大統領は、同8月、アサド政権への懲罰の限定的軍事制裁を発表。アメリカ海軍艦艇数隻が、シリア沖の地中海に展開。

 しかし、英国が不参加を決めると(8月29日)、米国単独主導でできるのに、また米国の大統領制では必要性がないのに、議会承認の手続きをし始めた。つまり、オバマは「軍事制裁を中止する」と、前言を撤回した。すると、それまで「アサド政権は化学兵器など使用していない」と米英を非難していたプーチン・ロシア大統領が掌を返して「シリアの化学兵器を破棄させてあげましょう」と仲介に名乗りを上げ、9月半ばには早々と、米国の軍事制裁は雲散霧消した。むろん、シリアの化学兵器の破棄は半分ぐらいで、残りは隠して、今もアサド政権は十分な量の化学兵器を所有している。

 問題は、これが世界に、「米国は1930年代の軍事不介入主義に回帰した」とのメッセージを与えたことにある。化学兵器による一般国民殺戮である以上、“米国の軍事介入主義の敷居値を上昇させただけですよ”で済ますことはできない。どうやらオバマによって米国は、第二次世界大戦の終結から六十八年を経て、ついに軍事介入主義を背景とした米国対外政策の根幹を凍結した。少なくともプーチンのロシアは、そう確信した。

 

(附記)本稿は、2016年秋、重度の虚言病を病む、窃盗と詐欺を日常的な常習とする者に盗まれました。

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