筑波大学名誉教授 中 川 八 洋
6月5日未明に開始したウクライナの反攻作戦は、すでに二ヶ月以上が経過。が、遅々として反攻は膠着状態。現在までの奪還領土面積は1%程度。ウクライナ軍は全力投球で勇敢に戦っているのに、なぜこのような事態に陥ったのか。主要な理由は、次の三つ。
A;ロシアが敷設した対戦車地雷の数は半端ではない。この地雷除去作戦には、抜本的な対策を講じる必要がある。
私の計算だと二百万ヶ以上のロシア対戦車地雷が、ウクライナ軍の反攻予定コースにぎっしりと埋っている。現在のように、多大な時間を喰われる地雷の除去をしつつ進む戦法では、“ザポリージャ州を南下縦断して、アゾフ海沿岸(ベルジャンシク)に到達する”に、あと一年半はかかる。反攻の主軸を、ウクライナは根本的に再考すべきだろう。例えば、へルソン州の南半から回り込んでベルジャンシク/メリトポリを攻略する戦法への変更を緊急に検討すべきだ。
B;制空権を有さないウクライナは、軍事作戦のイロハに反して、ロシアが航空優勢の戦場で反攻作戦を進めている。しかも、ロシアは、スターリングラード戦(WWⅡ)や203高地(日露戦争)で見せたように、世界一の防御戦能力を発揮する。そんなロシア軍部隊を、航空優勢なしで撃破するなど至難の業。米・欧・日は、ウクライナの防空力の大増強と航空優勢構築に、抜本的な支援強化をすべきである。日本は、陸自の日本版ゲパルトを全基、ウクライナに即時供与すべきである。
対露“航空均衡parity”の要となるF16の配備情況は暗い。欧州諸国で訓練中のF16パイロットがウに戻るのは、早くて今年10月末。米国で訓練が始まるF16パイロットがウに戻るのは来年7月。現在、ウクライナ空軍パイロットには英語堪能者が残っておらず、新規にこの8月から米国に派遣される彼らには英語研修四ヶ月が必要。NATOのF16供与決定は、丸一年間遅すぎた。
C;ウ軍の榴弾砲や多連装ロケット砲の砲弾は余りに少ない。つまり、ウ軍の砲弾不足は深刻。これでは、迅速な反攻・領土奪還など夢のまた夢。現在、ウ軍は倹約に倹約を努めて、一日平均一万発。一方、ロシアは一日平均五万発を使っている。ウ軍の砲撃練度は高いが、これを考慮しても、ロシアの六割に相当する一日三万発を撃たなければ、円滑なロシア陣地攻略はできない。日本は韓国と共同して三ヶ月分を引き受け、合計百万発を供与せよ。具体的には、日本は155㍉砲弾を五十万発供与すべく、その生産をフル稼働せよ。