筑波大学名誉教授 中 川 八 洋
英国首相チェンバレンがヒトラーの言いなり人形になって、同盟国チェコの“天然の大要塞”ズデーテン山岳地帯を、ナチ・ドイツに献上した愚行は、今も欧州諸国の誰も忘れない。このチェンバレンの対ヒトラー宥和が、もろに第二次世界大戦となり、欧州を焦土と化したからだ。だから今も英国人は、1938年10月5日、当時のヒトラー・ブームの英国にあって、敢然とチェンバレンのミュンヘン宥和を非難したチャーチル下院議員の炯眼と勇気を、八十六年が経つ今も讃えるのである。
軍備管理論や対ナチ・対ロシア政策を含め、私の国際政治学は、チャーチル外交をモデルにそれを発展させたものだが、私が読んだ厖大なチャーチル演説の中でも、この“ミュンヘンのチェンバレン愚行”を糾弾するチャーチル演説ほど、世界の平和秩序維持における侵略者と戦う精神の重要性を訴えたものは他にはない。
日本では、コミンテルン共産党系の近衛文麿が大東亜戦争を開始した1937年7月以降、スローガン「鬼畜米英」の集団ヒステリーの大暴風が荒れ狂い、チャーチルを報道することはほとんどなく、況やチャーチルを称賛する声は一文字も活字にならなかった。だから、1938年9月のミュンヘン会議の報道は、ひたすらヒトラー礼讃が洪水となって日本の新聞・雑誌を埋め尽くした。
赤いファッシズム時代の大東亜戦争八年間の悪影響は、反共だったGHQの七年間統治を経ても今も日本を蝕み続け、日本の大学ではチャーチル研究は共産党により絶対禁止。戦後八十年の2025年に至っても、チャーチルに関する学術研究は論文一つ存在しない。チャーチルの主要な重要演説は一本も翻訳されていない。日本の国際政治学界が蟻の忍び込む隙間すらないほど反チャーチル一色なのは、大学が共産党に簒奪され、学問の自由が日本には全く無いためだ。
「チェコは単独でヒトラーと戦うべきだった」は、天才チャーチル慧眼の神髄
本稿の目的は、「ウクライナは、どんなに苦しくとも米国無しで、欧州諸国と連携して侵略ロシアを国境外に叩き出す防衛戦争を続けるべきで、これ以外を選択してはならない」「ウクライナの領土は一㎡たりとも侵略者ロシアに与えてはならない」「犯罪者ロシアにいかなる利得も与えてはならない」を、“人類の宝”ゼレンスキー大統領と“美徳の騎士団”ウクライナ国民に伝えたいからである。
ウクライナがこれまで、《ロシアの侵略を領土の20%に留め国土の80%を守り切ってきた》のは、まずもって偉大なウクライナ国民の血と汗の結晶の賜物である。が、米国とバイデン大統領の支援の力も預かってきたのは事実。しかし今や、米国大統領の椅子に、アメリカ第一主義でKGBロスケという悪魔が返り咲いた。ウクライナの選択は、自由も平和もわからない“米国の金儲け”以外を思考できない“反・外交の狂人”トランプ大統領の対ロ停戦「仲介」を拒否することだけ。これ以外、すなわち対トランプ妥協を仮にも選択すれば、ウクライナは自らの国家消滅を招いていく。
尚、トランプの対外政策の指針は、守銭奴の不動産屋の体験のみ。国家の外交を全て《売り手・買い手》の二国間関係だとするスーパー近視眼の大道商人“感覚”。トランプは、各国ごとに米国への金の流入を増やし、また米国からの各国ごとへの金の流出を防げば、米国は富を増やし国民は富むと短絡する。つまり、全体的な視野で世界全体と米国の位置を鳥瞰できない、スーパー視野狭窄が、トランプの“米国のみ金儲け”外交を形成している。トランプは完全に狂っている。
(備考)『ジョン・ボルトン回顧録』は、トランプの真像を剔抉した最高の良書。
しかし、このトランプ流の“米国のみ金儲け”外交の結果は、真逆になる。米国の富を破壊的に減らし、米国民をより貧困に導くからだ。米国をして世界の超大国から引きずり降ろすからだ。米国外交も米国の経済的な繁栄・富も、スパイクマン地政学から逸脱すれば、逆流が起き奈落の道へと堕ちて行く。
このことは、1938年9月30日のミュンヘン会議で、“対独戦争恐怖症のチキン”英国首相チェンバレンの、対ヒトラー全面屈服という大愚行が、翌1939年9月1日に始まる第二次世界大戦の直接の引金となった歴史が証明していよう。ヒトラーと英国との二国間に限る一時的な平和に視野狭窄して、ヨーロッパ全体の軍事バランスを思考できない“ド近視眼”チェンバレンは、とてつもない大戦争をヨーロッパにもたらした主犯である。
チェンバレンは、ズデーテン地方がチェコの領土であり続けることが“欧州の平和の守護神”なのがわからず、ヒトラーの“騙しの大嘘”「ズデーテン地方を割譲してくれたら、その後のドイツは永久に戦争を欲しない」を信じた。要はチェンバレンとは、チェコが英仏の同盟国であり続けることこそヨーロッパの平和をもたらすのに、戦争屋ヒトラーの放つ魔語「平和」「戦争をしない」を信じ、チェコを戦争狂のヒトラーに貢いだ。その瞬間(十一ヶ月後)、全ヨーロッパは第二次世界大戦の戦場になった。
チャーチルは、ミュンヘン会議のチェンバレンの対ヒトラー宥和が第二次世界大戦の引金になったと正確に予見し、英国民に、その旨を警告した。それが、有名な「A Total and Unmitigated Defeat 紛れもない全面敗北」演説(1938年10月5日)である。
(備考)この演説と戦後すぐのフルトン演説を併せ、キンドルでいいので、どなたか緊急に邦訳・出版をお願いしたい。チャーチル演説は、世界平和をもたらす最高級の特効薬である。
“神の目を持つチャーチルの演説”『(チェンバレンのミュンヘン会議は)紛れもない全面敗北』の骨子
日本ではチャーチル演説は、チャーチルが“反ナチ/反ソ/反共”である理由から、その主要演説の翻訳すら徹底的に妨害され、世界的に有名な『(チェンバレンのミュンヘン会議は)紛れもない全面敗北』は、邦訳されていない。そこで、その骨子を、以下、紹介しておこう。
a、英国の立場は、いわれのない侵略からチェコを防衛することの宣言のみ。これ以外は無い。この宣言によって、チェコの主権と領土が守られるだけでなく、欧州と英国の平和も擁護されるからだ。が、チェンバレンは、この真逆に走り、チェコを捨てチェコを破滅に追い込み、欧州を大戦争とその惨禍の坩堝に落とし込んだ。
b、天然の要塞ズデーテンランド地方を失ったチェコは、数ヶ月以内にヒトラーの餌食となろう。国家チェコは直に消滅し、闇の中に消える。(備考)このチャーチルの予測通り、チェコは1939年3月にヒトラー・ドイツに併呑され、地球から消えた。
c、軍事中級国家チェコが加わったヒトラー勢力圏と、軍事中級国家チェコを失った英仏勢力圏との均衡は一気に崩壊し、ナチ・ドイツの絶対優位が確立した。英仏がヒトラーに征服される危機が発生した。ズデーテン要塞を有するチェコ一ヶ国の軍事力は、ドイツ軍三十師団と同等。
d、中欧・東欧諸国の全域は、このチェコの(数ヶ月以内にドイツ領になる)破滅によって、「フランス‐チェコ同盟」という防波堤を失うから、ナチ支配を受容せざるを得なくなる。フランス陸軍力から遠いポーランドは無論だが、ドナウ河周縁の諸国──(1938年3月にヒトラーに併呑されたオーストラリア&ハンガリーに加え)ルーマニア/ブルガリア/ユーゴスラビア──も、英仏圏からの離脱を余儀なくされる。
e、チェンバレン=英国が、チェコの領土を、チェコの参加の無い会議で、対ナチ献上を決定したことは、主権国家チェコの自己決定権への侵害で、チェコの主権への侵害。国家主権は、民族自決の権利より優先される。(備考)ズデーテン地方はドイツ人が51%を超えるが、これはチェコ人の固有の領土ズデーテン地方に移民してきた、元は外国人のドイツ人。
f、英国は、ヒトラーがドイツを掌握した1933年初頭から、軍備増強に邁進すべきであった。特に防空の空軍力を強化していれば、(勝てる見込みは無いとドイツが知れば、初めから諦めるから)ドイツの軍拡を抑制したはずである。しかし、英国は、1938年に至る五年間、対独防衛の軍事力強化をサボりにサボった。(ドイツは今や英国に攻め入る空軍力を有する。1941年のバトル・オブ・ブリテンで英独対等だったのは、遅まきながらチャーチルに従った1939~40年の英国の緊急軍拡の成果)
g、英国がチェンバレンのように、ドイツに媚びても、英国とナチ・ドイツとの間に、友情も信頼も生まれない。(ナチ・ドイツの対英憎悪は、英国の対独宥和に比例して増大した)。
h、英仏に親近感を待ち、反ヒトラーの(約半分の)ドイツ国民が抱いていた“欧州平和への願望”“正義への希望”をチェンバレンのミュンヘン会議こそが一気に打ち砕いてしまった。そして、嫌々ながらのヒトラー支持へと追いやった。
チェンバレンを対ヒトラー宥和に決断させた、当時の英国人の“逆さ狂気”ヒトラー・ブーム
チャーチルの炯眼と勇気がいかに突出していたかは、それが1938年10月1日から翌年年頭にかけての英国の絶対世論に抗した、極端な少数意見の主張だったからだ。数字で言えば、国民の95%がヒトラーを平和主義者と見做しチェンバレンの英断を熱狂的に大称讃した。一方、チャーチル的な「ヒトラーはヨーロッパ制覇の野望に必ず驀進する。英国もヒトラーに攻め込まれる」と正しく予見する英国民は5%未満だった。
現に、チャーチルの下院演説「紛れもない全面敗北」はチェンバレン非難でありヒトラー糾弾だったから、ヤジと怒号に包まれた。チャーチルは、この演説を終えると議場を後にしたが、それに追随した者は、下院議員約五百名のうち僅か三十名だった。
ケンブリッジ大学の学生は、ミュンヘン会議の直後、「ヒトラーにノーベル平和賞を」と決議した。この1938年10月1日からしばらくは、「ヒトラーとチェンバレンがヨーロッパに平和をもたらした」と考える、狂った英国民で英国は充満した。この逆立ち国際観が、1938年秋&冬の英国民のコンセンサスだった。
尚、1938年の英国民の狂気は、現在のトランプ米国大統領の脳内と同じ。トランプは、「トランプ=チェンバレン、プーチン=ヒトラー」で露烏戦争を終わらせ、両国に平和をもたらせると思い込んでいる。トランプの脳では、「ゼレンスキーがロシアを侵略し、プーチンは已むを得ず防衛戦争をしている」と、現実が逆さになっている。米国民は、ひたすらノーベル平和賞を幻想し、嘘偽りの妄想に耽るトランプを精神病院に収監する責任を果たすべきである。
チェコは単独でナチと戦えば勝利し、ヒトラーはクーデタで殺害。自ら破滅を招いたチェコの怯懦
チャーチルは海軍の諜報部局にチェコの軍事力を詳細に調査させて、「チェコは単独でも対ドイツ戦争で勝利できる」と確信したのであって、山勘でそう思い込んだのではない。この意味で、第二次世界大戦を惹起せしめたミュンヘン会議のチェンバレン対独宥和は、筆頭に糾弾されるべきだが、チェコ政府の怯懦も、チェコの破滅に責任がある。
この歴史は、今のウクライナが、肝に銘じるべきもの。米国の武器援助無しで侵略ロシアとの防衛戦争を続ける覚悟と勇気こそ、必ずウクライナを全面勝利に導く。“アメリカ・ファーストの気狂い”トランプを遺棄する賢慮と勇断を、ゼレンスキーもウクライナ国民も再確認して実行する時! ロシアに対し怯まず戦い続ける、これがウクライナの宿命で、神の摂理(天命 Divine‐providence)である。
チャーチルは、1938年秋、チェンバレンに対するヒトラーの大法螺「チェコに侵攻するぞ」を、ドイツが仮に実行するとしても、五ヶ師団しか投入できなかっただろうと算定していた(注1)。実際にも、チェコが単独で侵略してくるナチ・ドイツと戦う場合、チェコは「正規軍が21ヶ師団、新規動員が15ヶ師団」を展開しているから、ドイツは最低でも30ヶ師団を投入しなくてはならなかった。が、実際にドイツがチェコに投入できるのは、五ヶ師団。しかも、ほとんどが戦車師団のこの五ヶ師団がズデーテン山岳地帯を超えることは百%不可能。山岳では戦車の電撃能力は無化され、一輌残らず撃破されるからだ。
(注1)チャーチル『第二次世界大戦』第一巻、河出書房新社、147頁。
さらに、この五ヶ師団は、ヒトラーの「チェコ侵攻」命令が有れば、チェコに向かう振りをしてベルリンを目指し、ヒトラー殺害をする予定だった(注2)。これが、前参謀総長のベック大将が指揮する「黒いオーケストラ」グループのクーデタ計画。仮に、チェンバレンの対ヒトラー宥和が無ければ、ヒトラーは、1938年末までには死んでいた。それは第二次世界大戦が無かったことを意味する。
(注2)グイド・クノップ『ドキュメント ヒトラー暗殺計画』、原書房、ほか。
話をチェコに戻すと、チェコは、自分の軍事力を極端に過小評価していた。またチェコは、ズデーテン山岳地帯がチェコを護る強力な天然要塞だとは知らなかった。単独でも戦うという勇者の精神を欠如する、チェコ人の優しく大人しい惰弱さが、その後のチェコの悲惨な第二次世界大戦の戦火とロシアの植民地となって地獄の呻吟四十四年間(1945~89年)をもたらすことになった。
この意味で、チェコは、“トランプの大先輩”チェンバレン及び“武士道精神なき”ベネシュ(チェコ大統領)の二人に翻弄され、未曽有の悲運に遭遇した。ウクライナの人々よ、チェコの二の舞をしてはいけない。ウクライナは自信をもってロシアと戦い続けよ。ウクライナの勝利は天の定めた運命。ケプラーの法則の如く、勝利の軌道を進み、敗北を喫することは万が一もない。
2・18リアド・ドクトリンを発動したトランプは、世界人類に第三次世界大戦をもたらす“悪魔の戦争屋”
トランプは法を順守して秩序を守ることが、最大多数の自由を擁護するということがわからない、下衆の中の下衆。無法のマッチョに粋がっているトランプは、西部劇に出てくるカウボーイより、粗暴なナラズ者。米国という世界秩序のリーダーとしては最も不適格で、退場が急がれる。
もともとアメリカ・ファーストは、1930年代に米国を席捲した状況を思い出せば分かり易いが、基本的にはアナーキズムの一種。“世界無秩序”の到来を、積極的ではないが、消極的に容認しているからだ。そして、「米国だけは“fortress₋America”だから安全で、国内では秩序は維持されているから問題ない」と考える。が、世界が無秩序になれば、それは大きなうねりとなって必ず米国に波及して来るのに、この事態を予測できない/目を瞑って予測しないのが、アメリカ・ファースト派なのだ。
1930年代のアメリカ・ファースト派を理論的に叩いたのがスパイクマン博士の地政学。ルーズベルト大統領の1941年12月の対日/対独宣戦布告が、アメリカ・ファースト派の息の根を止めた。
が、第二次世界大戦を通じて死んだはずのアメリカ・ファースト派という、“無法”讃歌の米国産アナーキズムを復活させたのが、貧困白人層を取り込んだトランプ。しかも、トランプは、世界無秩序の大海に浮かぶ“fortress₋America”構想を、彼のKGBロスケという祖国叛逆と複合させている。ために、トランプ外交は、ユーラシア大陸からの米国軍事力の(軍事空白とよく似た)凍結情況を創り、ユーラシア大陸全体を弱肉強食の軍事“無法”地帯に改変してしまうだろう。
この結果、ロシアは対外膨張がやりたい放題にできる。トルーマン大統領に始まる、ロシアを封じ込める(包囲する)米国伝統の対ロ外交姿勢をぶっ壊して、ロシアを国際社会にエセ通常国として復帰させるトランプとは、ロシアの侵略に加勢協力する“ロシアの対外侵略”の共犯者となっている。つまり、トランプに後押しされて、ロシア/中共/イランそして数多くのテロ組織は膨張とテロを恣にする時代が到来した。まさに、トランプが、世界の侵略予備軍諸国家を、侵略へと駆り立てていくことになった。この状態は、必然的に世界を第三次世界大戦に導く。トランプによって、戦後永く休火山だった「眠れる第三次世界大戦の火山」が大噴火を起こす日は近い。
“チキン”トランプは、米ソ核戦争恐怖症ニクソンと“KGBロスケ/共産主義者”カーターの混血児
侵略国ロシアの国際復帰を決定した2025・2・18リアド・ドクトリンとは、1979年のロシアのアフガン侵略にも直結した、世界の秩序を溶解した1969年7月の米国ニクソン大統領のグアム・ドクトリンに匹敵する。グアム・ドクトリンとは、第二ハートランドの支那大陸も“包囲”してその膨張を阻止せよ!とのスパイクマン博士の警告に違背するもので、クエーカー教徒ニクソンとKGBロスケのキッシンジャーが、《中共を米国圏に抱き込み経済的に発展させれば、中共はロシアと敵対となり対ロシア膨張の防波堤となる》との非現実な妄想を根拠に、中共を国際社会に復帰させ、米国は軍事力をアジアから撤退させると謳ったもの。
一方、トランプのリアド・ドクトリンとは、リアドにおける2月18日の米ロ外相会談やその前後のトランプtwitter発言を総合したものを言う。①露烏戦争の戦闘停止の原案を、ウクライナ抜きで、米ロ二ヶ国で策定し、ウクライナに飲め!と強要する。②露烏戦争はウクライナがロシアに仕掛けた戦争で、ウクライナの方が侵略者である。(備考)「太平洋戦争は、米国が日本のパール・ハーバーに奇襲したことで始まった戦争」と同じ詭弁。③ウクライナに対しては、ロシアへの領土割譲を飲ませる。④ウクライナのNATO加盟は認めない。⑤ロシアはウクライナから新規領土を獲得し、米国等からの制裁は解除され、侵略の罪は免除される。⑥米ロ策定の戦闘停止条件には、“選挙で選ばれていない独裁者”ゼレンスキー大統領の辞任を含む。(備考)戦争中は選挙をしないのが、世界の憲法の定め。
①~⑥全て、プーチンの主張の丸呑み。トランプは、プーチンの忠犬。正常な米国大統領ではない。
これほどトランプが極端なプーチンの代言人だとは、誰しも想像しなかっただろう。そこで、トランプを過去の米国大統領と比較しておこう。最も近似性があるのは、アフガン侵攻前のカーター大統領か。カーターは、トランプ以前では、唯一のKGB大統領で、唯一のレーニン主義系の共産主義者だった。カーターの金日成崇拝は有名。これ、金正恩と二度も会ったトランプと実に瓜二つ。
イランのパーレビ国王を追放しホメイニによるイスラム原理主義国家イランへの革命にはカーターが相当な裏工作をした。ニカラグア共産政権への梃入れもカーター。ソ連KGB製のロッキード・スキャンダルで田中角栄がやられたが、これは「カーター・三木武夫・モスクワKGB」三者の仕掛けた罠。「これほどロシアに協力するカーターの米国なら反撃は無かろう」と決行したのが、ソ連の1979年12月末のアフガン侵攻。がカーターは、この瞬間、KGBの自分を自制し米国大統領に戻った。
戦後の米国大統領で、核戦争恐怖症のワーストは、「ニクソン、オバマ、トランプ、アイゼンハワー」の四名。ニクソンはクエーカー教徒で、これがこの病気の罹患理由。オバマは、(レーニン系ではなく、ヒッピーの教祖)マルクーゼ系共産主義者として核兵器廃絶運動にのめり込んだ。トランプは、オバマに近い。1930年代のアメリカ・ファーストは、当時の米国で全国を席捲した共産主義からの派生体。ために、アメリカ・ファーストから、ロシアや共産主義者に共鳴することがしばしば起きる。
尚、米国大統領の中で、核戦争に全く恐怖を感じなかったのはレーガン。レーガンに少し近いのがケネディ。この問題が重要なのは、米国の“核の傘”の信頼性credibilityを決定づけるからだ。核戦争への恐怖ゼロの真正の勇者レーガンなら、日本に対する米国の核の傘に全幅の信頼を置ける。が、同盟国への責任感がない上に、核兵器に対し恐怖感があるトランプに、日本に差し出す米国の核の傘の信頼性はいかほどか。日本は核武装の選択肢を準備だけでも急がねばならない。
プーチンはウクライナ全土を占領するまで戦争を止めない──トランプの停戦はウクライナの抹殺
トランプには正常な人格も、正常な思考も存在しない。外国との関係を、その首脳に対する自分の好き嫌いや、自分への尊敬心や称讃の度合いから恣意的に決める。つまり、法的契約の遵守とか倫理とかを、国家関係の規範としない無法な野蛮人がトランプ。
2021年1月の連邦議会の建造物に乱入した器物損壊の無法者達に対し、罰(刑期)の短縮なら恩赦としてあり得るが、罪を“無し”としたトランプの恩赦は恩赦ではなく、無法と暴力礼讃以外の何ものでもない。今般のウクライナへの武器支援に絡む、ウクライナのレア・アースの対米供給も、これからの武器支援に対する代物支払いだと誰しも思ったが、そうではない、バイデン大統領がなした無償の武器援助を遡及して“代金の代物弁済”への契約変更なのだ。既に供与済みバイデンの無償を、「無償を取り消す。有償にするから代物で支払え」など、暴力団や詐欺師の難癖と同じ。
Rogueトランプは、国際政治はチンプンカンプンの無知無学。ロシアのウクライナ侵略は、ウクライナの全土占領とウクライナの地球上からの抹殺まで終わらない。つまり、露烏戦争でロシアは、一般通念上の(ポツダム停戦のような)停戦なら決してしない。このことは、プーチンの対ウクライナ宣戦布告文である、2021年7月12日付けプーチン論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的統一について」(約5千ワード)に明記されている。それは、一言で言えば、「ウクライナは、この地球上に存在してはならない」という狂信的なドグマの発出だった。
上記プーチンの対ウクライナ宣戦布告文を解り易く書き直したのが、侵攻後の2022年4月3日に配信された、ノーボスチ通信社の記事「ウクライナ消滅論」。また、ノーボスチ通信社は、2022年2月26日、ウクライナに対するロシア侵略の勝利成功時の予定稿を(直ちに引っ込めたが)間違って流した。プーチンのウクライナ全土掌握が二週間で完了する予定だったことがわかるし、対ウクライナ侵略の戦争目的が、ウクライナの全土占領・全土併呑で、これ以外ではないことも鮮明になった。
つまり、トランプが今やろうとしている露烏戦争の停戦は、和平への停戦ではなく、ロシアの対ウ全面侵略を再編する時間的余裕を与える、すなわちロシアに“息継ぎ=一時休息”させるため。ウクライナを完全抹殺することでは、トランプはプーチンと軌を一に共有。ゼレンスキー大統領よ、トランプと徹底的に争え。敵トランプを潰さなければ、ウクライナに対ロ戦争勝利は到来しない。
また、トランプが対ロで現在の威勢を続けることは、神仏も米国の国民も許さない。そう遠くない時期に(おそらく二年を待たず)、トランプは業火に焼かれる。関税戦略の失敗は未曽有の規模となり米国経済が大混乱するのも近いし、物価高騰は未曽有の規模になるから米国一般国民の対トランプ離反は目前。この意味で、ウクライナの対ロシア情勢は、長期的に見れば、トランプの出現でさほど不利にはならないだろう。
ロシア軍は突然パニックを起こして戦場から退却することも多く、1905年の奉天会戦では、ロシアは敗北していないのに突然、蜘蛛の子が散るように全面退却の潰走をした。ゼレンスキーよ、天命を信じよ。勝利の女神は、決してウクライナを見捨てない。
これはロシア外交に関するイロハだが、ロシアは侵略に当り、その途中途中に退却や敗北停戦をするが、これすべて騙しの一時みせかけ。偽装ではないのだが、実態的には偽装と同じ。ロシアは退却しても、十年から二十年の息継ぎ期間の後に、当初の侵略目的を完遂する。
このロシア流の侵略方法は、クリミア戦争に敗北した1856年から僅か二十二年後の1878年、ロシアは、ザ・カフカースからバルカン半島にかけて、膨大なトルコ領の奪取に成功した歴史一つを思い出せば、明らかなこと。
1877~8年の露土戦争で、ロシアはトルコに圧勝し、サン・ステファノ条約で、セルビア/モンテネグロ/ルーマニアは、トルコ帝国の公国からロシア影響圏の独立国家になった。ブルガリアは形式ではトルコ宗主国のままに、ロシア保護国の自治公国になった。また、カフカースのアルメニアはトルコからロシアに割譲された。英仏はクリミア戦争で勝利したが、1878年から俯瞰すれば、徒労であった。ロシアとの戦争は、最低二十年間のスパンで見ないと、その勝敗は判らない。不動産屋トランプは商売柄、超ド近眼が習性で、国際情勢の趨勢や神髄を見据えることができない。国際法の法的正義を無視するrogueトランプは外交能力をいっさい欠く以上、トランプに外交をさせてはならない。
“人類の宝”ゼレンスキーと正義の国ウクライナを守るべく、日本はウに可能な限りの武器を送ろう
rogueトランプは、“無法の大嘘つき”で、倫理と道徳を欠く野蛮人。野蛮人だから、文明人が有する遵法とか法的正義に一片の敬意も払わない。当然、ロシアからのいわれのない侵略に、耐えて耐えている“美徳の勇者”ウクライナを称讃する礼節など、無法者トランプには無縁である。
だが、自由社会の諸国家は、道義を国際的交際のルールとする。当然、“美徳の勇者”ウクライナを擁護し、悪虐な侵略からウクライナを守る義務を果たさなければならない。このことを、日本人はもう一度、心に深く刻もうではないか。それにはトランプを排除したウクライナ支援の、欧州と日本の統一機構を作り、ウクライナが武器弾薬に困ることなく戦闘を続けられるよう、武器を大量に送る義務を果たすのが第一。
具体的には、自衛隊法第116条三にある十文字「武器(弾薬を含む。)を除く」の削除を、現在の通常国会で行い、陸上自衛隊が保有する榴弾砲や多連装ロケット機そして戦車を、ウクライナに可能な限り送ることだ。
問題は、日本の国会議員に、国防や国際政治を専門とするその道のエキスパートが一人もいない惨状。例えば、ウクライナに武器を送るに必要な措置はいとも簡単で、上記で言及したように、自衛隊法から十文字を削る改正で済む。二日間もあれば衆参両議院を通過させることができる。だが、誰ひとりとして、この音頭を取ろうとはしない。
この寂しい状況は、日本の国会議員の中で、日本国の国防に責任感を持つ者はゼロである証拠。日本国防衛への精神とウクライナ防衛への責任感は、表裏一体で不可分の関係にある。この故に、ウクライナ防衛に無関心であることは、日本防衛に無関心である証左となる。
具体名を挙げて説明しよう。自衛隊法第116条改正は、2022年春、小野寺五典が提唱したが、その直後、岸田文雄に叱られると、口を噤んでしまった。山田宏や佐藤正久は、反ウクライナの急先鋒。恐らく両名はKGBと昵懇な関係にあるようで、日本の国防にも何ら真剣に取り組んだことがない。高市早苗は、このいかがわしい山田宏と仲良し。KGBロスケの北朝鮮人・櫻井よし子ともベタベタ。だからか、高市早苗は、「ウクライナに武器を供与しよう」と、叫んだことが一もない。
一億日本人は、日本国を外国の侵略から守らんとする精神も知識もいっさい喪失した。現に、ウクライナ支援をシャモジと共に若干行った岸田文雄は、それをcharityのように考えていた。また、戦争後のウクライナ復興で多額の利得を得たいとする日本の民間企業に押されて、岸田は援助をした。道義とか正義とかの高度な倫理性からのウクライナ支援ではなかったのだ。しかし、ウクライナ支援は、日本国の国防に直結する、日本国民の義と勇の美徳を顕現する行為であって、目先の経済的利得でなすべきものにあらず。
“第二のチャーチル”ゼレンスキーが、rogueトランプに口汚く罵られている。ゼレンスキーを護れ!
KGBで“ロシアの代言人”トランプは、ノーベル平和賞欲しさなのか、プーチンから数百億円もらったのか、ロシアの侵略を正当化し、ウクライナに対ロ降伏を強制する、あらん限りのアクドイ罵声を“不世出の戦争指導者”ゼレンスキーに浴びせている。ゼレンスキーは、英国のチャーチル/フィンランドのマンネルヘイム元帥と並ぶ、世界史に残る偉大な戦争指導者で、人類の宝である。
われわれ日本国民は、ゼレンスキーをトランプの悪罵から守らねばならない。ここで、その具体的な方策を提示できないが、少なくとも、「ゼレンスキーよ、トランプなんかに負けるな。頑張れ!」との声援なら送ることができる。また、米国民が早急に、トランプを「プーチン・ゲート」で退陣に追い込むのを祈ることはできる。
(2025年2月20日記)