尖閣(魚釣島)に標柱すら建立しない“鵺”安倍晋三──空母も建造しない、危険で有害な“口先だけの中共批判”

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筑波大学名誉教授   中 川 八 洋

中共空軍機、“日本の防空識別圏”を侵犯し、自衛隊の二機を威嚇

 さる六月十一日の午前十一時から正午の間、中共の空軍機SUスホーイ27一機が、尖閣諸島の上空近辺で、航空自衛隊の電子測定機や海上自衛隊の画像データ収集機に異常接近する威嚇行為を行った。それぞれ、三十メートルと四十五メートルの距離まで近づく危険飛行だから、偶発ではなく、その政治目的はありあり。

 二〇一三年十一月、尖閣諸島の領有を狙って、中共が突然かつ勝手に設定した“違法”「防空識別圏」を誇示するのが第一目的。第二の目的は、空中衝突の危険ありと騒がせ、日本政府をして対中対話に引きずりこみ、この違法防空識別圏を既成事実として日本が認めることになる“安全確保の協定”を締結させようとの魂胆もありあり。

 日本側としては、この中共の「防空識別圏」そのものを全否定し、その不存在を確定したいのだから、安倍内閣はあくまでもその撤回をひたすら求めて、本件にかかわる、どんな話し合いであれ、そのテーブルにつくことはしてはならない。

 なお、中共の空軍機による日本の“防空識別圏”への侵犯侵入の不法行為は、二〇一四年五月二四日に続いて二回目である。このときの侵犯機は二機。六月十一日と同じスホーイ27空中戦闘機。その異常接近による威嚇のやり方も同じで、航空自衛隊の電子測定機と海上自衛隊の画像情報収集機に対して後ろから三十メートルまで近づいた。

 この“防空識別圏”侵犯問題は、別稿で改めて論じる。本稿は、尖閣諸島への中共の上陸占領の軍事演習を兼ねた、ベトナムの主権を侵害する中共のやりたい放題の侵略行為を他山の石として喚起し、日本は尖閣をいかに防衛するかを論じるものである。

「西沙諸島」海域で、ベトナム漁船を体当たりで沈没させた“蛮行の中共”

 シンガポールで、三日間も開催された「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」は、六月一日に閉幕した。日本からは安倍総理、また米国のヘーゲル国防長官も出席し、中共の代表(中共軍・副参謀総長)と激しい論戦が繰り広げられた。

 この中共の代表は下品で粗暴きわめる軍人で、その名は王冠中。国際会議のマナーなどそっちのけの野蛮人流儀を剥き出して、公式スピーチにおいて名指しで「安倍氏は遠まわしに中共を攻撃した。ヘーゲル氏の演説は中共への威嚇の言葉に満ちていた」などと声を荒げた。

 だが、この一週間前の五月二十六日、中共の約四十隻からなる擬装漁船団は、パラセル(西沙)諸島近海の海上で、ベトナムの漁船一隻(乗組員十名)を体当たりで沈没させるという蛮行を働いた。この悪質な衝突・沈没事件は、ベトナムの排他的経済水域(EEZ)に、中共が不法に石油掘削施設を設置した地点から南西に三十一㎞の海域。

 この南シナ海における(ロシア民族・セルビア民族と並ぶ)“世界最凶の野蛮人”漢民族の暴力の侵略的行動について、(無関心よりはましだが)多くの日本人はビックリする始末。しかし、この二〇一四年五月二十六日の事件は、一九七四年一月の「パラセル(西沙)諸島戦争(西沙海戦、永楽海戦)を再現しただけで何一つ新しいものはない。

 「知性のイロハは記憶していること」だから、日本人が“西沙海戦”のことを知らないのは、日本人の知性が劣化して知性なき民族に堕したからである。

 また、「西沙諸島」とは、「宣徳群島」と「永楽群島」の二つを総称したもの。西沙の東半分である「宣徳群島」の方は、中共は、とっくの昔の一九五五~八年に占領してしまった。盗みは、漢民族(支那人)の特技である。そして、西沙諸島の西半分である「永楽群島」を侵略し、ベトナムがこれに対して“自衛”を発動して始ったのが、「西沙海戦」とか「永楽海戦」とか言われるベトナム・中共の戦争である。近頃は、“パラセル諸島戦争”という。

 日本人から国家を守る防衛意識が完全に腐蝕し消滅していることは、ベトナム漁船沈没事件を引き起こした“五月二十六日の西沙諸島海域事件”の報道を聞いて、五十歳以上の日本人のすべてが、直ちに「第二の<パラセル諸島戦争>が勃発したぞ!?」と頭をよぎらなかった事実に明らかだろう。日本が真剣に尖閣諸島を守りたいなら、「パラセル諸島戦争」の事実が国民広くに知れ渡っているはずだ。

 ほんの一部の日本人は、二〇一〇年九月七日の、尖閣諸島付近で違法操業する中共の漁船が海上保安庁の巡視船「みずき」「よなくに」に対し悪質な追突の衝突を繰り返し、果ては海上保安官にレンガまで投げた公務執行妨害罪の暴力事件を思い出した。確かに、四年前の中共「漁船」の日本巡視船衝突事件の延長上に、今般の中共「漁船」のベトナム漁船沈没事件が連続する線上に起きている(注1)。尚、中共の「漁船」は軍がチャーターしたもので、乗船者は、ほぼすべて軍の将兵である。

 この「南シナ海」で、他国のEEZ内での石油掘削にしろ、これに近づいた(自国のEEZ内で操業する)他国漁船を事実上の「撃沈」に到らしめる野蛮行為にしろ、日本国は、これら中共の「侵略」的な行動を断じて認めてはいけない。日本には、これにからみ喫緊の問題が二つある。

 第一は、この南シナ海が、日本にとって、中東からの石油や天然ガスの重要シーレーン(海上通商路)であること。第二は、南シナ海での他国のEEZ内侵入や他国の島嶼侵攻が、東シナ海での尖閣諸島侵略への演習を兼ねていること。

日本は、島嶼防衛での、ベトナムの対中敗北を他山の石としなければならない

 「パラセル諸島戦争」といっても、四十年前のことだから、現在五十歳以下の日本人には、仮に愛国心があっても知らないこともあるだろう。少し説明しておきたい。  

 まず、中共は、いつもの手口だが、「(西沙諸島の西半分の)永楽群島は、支那の領土である」と世界に発信(一九七四年一月十一日)。続いて、(軍の小部隊が漁民に擬装して乗船する)大型の「漁船」二隻をもって群島の一つの島「甘泉島」に中共の国旗を掲揚した。そこで南ベトナムは、この「甘泉島」と隣の「金銀島」に歩兵部隊を上陸させ、「甘泉島」の中共国旗を引きずり倒した(一月十七日)。  

 これに対して、同じ日、中共は隣接する「広金島」「普卿島」「琛航島」を駆潜艇二隻で侵攻し軍事占領した。ここに、両国間に戦争が勃発した。南ベトナムは、支那兵が占領している「広金島」に四十名の一ヶ小隊を上陸させ奪還を試みた。同時に、海上では南ベトナムの「護衛駆逐艦一隻、哨戒艦二隻」と、中共の「駆潜艇四隻、掃海艇二隻」との間で海戦が始った。永楽海戦(西沙海戦)である。  

 この結果は、中共の圧勝。南ベトナムは、哨戒艦一隻が撃沈、他の一隻も大破、そして陸兵百名ほどが死傷。永楽群島すべてが中共の侵略するところとなった。すなわち、西沙諸島全域が中共のものとなった。  

 以上の「パラセル諸島戦争」については簡単な概説が拙著『尖閣防衛戦争論 』にある(注2)。参照されたい。

「海洋侵略の中共の暴虐を世界に発信できた」?──外務省の奇怪な馬鹿さ

 尖閣諸島防衛に関する安倍晋三首相やその配下の外務省の動きが、何か変だ。余りに奇天烈にすぎる。なぜなら、先のシャングリラ・ダイアローグなどで、日本側の中共非難がそれなりに評価された事実に、「中国との情報心理戦に勝利した」と公言し、過剰な満足感に浸っているからだ。領域保全やEEZ問題に、情報心理戦なんか何の意味があると言うのだ。  

 シャングリラ・ダイアローグで、日米共同の舌戦が対中優勢だったからといって、中共が、西沙諸島の南西側海域に設置して稼動させている巨大な石油掘削施設を撤去した訳ではない。西沙諸島の西半分に当たる永楽群島を、ベトナムに返還した訳ではない。

 舌戦は、舌戦。それだけのことだ。相手に当方の意思を承諾させる言質を取り得ないならば、言いっぱなしほど、空疎で危険なものは無い。国際政治や国防問題は、結果だけがすべて。南シナ海と東シナ海の海洋覇権(シー・コントロール)を目指す中共の海洋権益拡大と海洋島嶼侵略のモーメントを挫けさせえなかったことにおいて、シャングリラ・ダイアローグの敗者は日米、勝者は中共である。

 中共から見れば、安倍晋三は、ただよく喋る“饒舌人形”のようなもの。強硬な対外拡張主義をひた走る習近平政権の中共は、心底では安倍晋三の軽佻な芸人的言動をせせら笑っている。国際場裏では、漫才師もどきの安倍など、侮蔑され無視されるのは当たり前だろう。  

 このことは、東シナ海に浮かぶ“日本国の固有の領土”尖閣諸島の情況を見れば、一目瞭然。安倍政権になっても、中共は尖閣への侵攻態勢を弱めてはいない。実態的にもますます侵攻占領の危機は増大している。安倍の口先非難など、中共にとって、蚊が刺したほどの効果も与えていない。ちなみに、安倍晋三が首相になってからの、中共公船の尖閣諸島への「接近」の実情を表1に掲示しておこう。以前と何一つ変化していない。

 中共公船の尖閣領域侵犯を排除できない事実は、安倍晋三の尖閣防衛対策が実はいかに無策かを顕著に証明する。    

表1;侵犯の中共公船が語る、無益無効な安倍晋三の対中“口先”非難

抑止こそ軍事力の神髄、自衛は次善──「戦わずして勝つ」二つの尖閣防衛策

 実際にも、安倍晋三は、尖閣防衛について、総理になってすでに一年半が経つが何一つやっていない。無策無為を決め込んでいる。その理由は、心底で中共すなわち習近平と何らかの取引をしようとしているからで、尖閣問題で対中刺激を極力避けている。刺激を避けた国防など、ウィスキーの入っていない水割りのようなもの。だが、軍事力嫌いの安倍のことだ、尖閣防衛の放棄を事実上決断していると見てよいだろう。  

 安倍晋三は、集団的自衛権など、法制度的側面の改善にはほんの一部だけだが関心がある。が、具体的な軍事力になると、全くと言ってよいほど無関心である。

 いや安倍は、対中/対ロ防衛など全くできない貧弱な自衛隊の軍事力について、「十分に充実している」と、完全に現実から遊離した逆立ちの先入観に凝り固まっている。時には見せる、安倍の防衛力増強の仕草がほんのお印程度なのは、安倍の心の中では、自衛隊の票田ほしさの防衛力強化しかしないと決心しているからである。  

 だから安倍は、尖閣防衛や東シナ海の対中シー・コントロール阻止の国防問題で、空無な舌戦を楽しんでも、具体的な行動も軍事力強化もいっさいしないのである。たとえば、尖閣諸島の魚釣島に、「日本国の領土」と書いた石柱標識を建立しようともしない。つまり、安倍には、尖閣諸島を守り抜こうとする意思が完全に欠けて不在。この点では、民主党政権の菅直人と安倍の距離は五十歩百歩である。  

 軍事力は、基本的には戦争をするためではない。軍事力とは、その本義たる筆頭目的は“抑止deterrence”であり、『孫子』の不朽の名言「戦わずして勝つ」に通底するもの。抑止とは、正確には「勝利が望めないと思わせる強大な軍事力を近接の敵性国家(adversary)に見せて、その戦争開始の決断を断念させる」こと。  

 この抑止は、二つからなる。第一は、尖閣諸島侵略そのことを不可能にする尖閣諸島の要塞化。第二は、中共が尖閣を奇襲で仮に一時的には占領に成功しても、迅速かつ確実に日本が奪還できる軍事力の保有。  

A尖閣諸島の要塞化

B尖閣諸島を容易に奪還する軍事力の整備

C自衛隊が平時における敵性国家の領域侵犯行為排除をできる自衛隊法全面改正の法整備

の三政策につき、日本は国挙げて最優先の国策としていま全力投入しているはずだ。このABCさえしていれば、尖閣諸島はいつまでも平和的に日本領土であり続けるだろう。つまり、中共との戦争を確実に回避でき、対中戦争を日本の近未来から除去できる。

 軍事力とは、「百年剣を磨く」もの。すなわち国家の軍事力とは、床の間に飾る使うことのない高級な剣のようなものである。ということは、敵性国家を震えあがらせる“斬れる名剣=精強な軍事力”を保持することが、国家の要諦である。しかし日本国は、このような名剣を持たない、精神が腐敗の極に達した“国家もどき”の道をみずから選択し、此処から脱しようとはしない。

「尖閣の要塞化」とは・・・ 

 さて、尖閣諸島を中共がどれほどの軍事力を投入しても、“浮沈の空母”(unsinkable aircraft-carrier)のごとく安泰であり続ける要塞化を、どうするか。その答えは、台湾と支那大陸の間にあって、大陸のそばにある金門・馬祖の二島が、よく中共の猛攻撃に耐えて存続を維持しえた、蒋介石の離島防衛戦に学べばよい。簡単な説明は、拙著『尖閣防衛戦争論』(五七~八頁)にしておいたから、熟読するように。

安倍晋三よ、尖閣を容易に奪還できるよう、上陸作戦空母の建造と二万人の海兵隊創設を急げ!!

 いったん中共が占領した尖閣の魚釣島を奪還するためには、現在、自衛隊が開始した“離島奪還の海兵隊”構想ではまったくダメ。なぜなら、それは常識的な“海兵隊”ではなく、海兵隊的な軍事行動を一通りマスターした、一ヶ大隊規模の上陸作戦が可能な陸軍部隊。旧軍の呼称で「陸戦隊」と呼ばれたものの、いわば実験的な再現モデル。

 しかも、この超小規模の約千人程度の一ヶ大隊(自衛隊は「連隊」と詐称している)は、六千人規模の一ヶ旅団を三ヶ必要とする日本のもつべき海兵隊からすれば、二十分の一。五%しかなく、余りに小さくナンセンス。

 しかも、日本はスキージャンプ台を持つ上陸作戦空母の建造計画はないし、それに搭載する固定翼のハリアーⅡ(AV-8B)購入の計画もない。上陸作戦空母は、ウェル・ドックがなくてはならない。それ無しには、上陸用ホーバークラフトLCACを格納できない。LCACとは兵員百八十名と戦車一輌とLAV25二輌が搭載できる排水量百トンのホーバークラフト艇。

 上陸作戦空母は、スペインの「ファン・カルロスⅠ世」がベストであり、これを模倣して建造すればよい。これら、最小限度の日本の海兵隊については、仮案を拙著『尖閣防衛戦争論 』の六四~七二頁に概略をまとめておいた。精読されたい。

隣国による、平時の領域侵犯を排除できる自衛隊法の全面改正を!

 なお、自衛隊法の抜本改正問題への言及は、別稿とする。表1の中共の公船領海侵犯を現在日本がまったく排除できないのは、すべて自衛隊法の大欠陥から発生している。しかし、IQが極度に低い安倍晋三首相は、海上保安庁の巡視船を増やせば、対処できると信じている。仮に百隻、二百隻の巡視船を尖閣に展開しても、凶暴な中共の平時の侵犯行為を排除することはできない。

 だが、安倍晋三だけではないが、外務省も自民党国会議員も、むろん防衛オタクの石破茂も含めて、「平時」と「戦時」の区別ができない。このことは、集団的自衛権の解釈変更閣議決定をめぐる国会論議で、「平時」かつ「ROE(現地部隊の現地での戦闘規則)」のケースを、「準有事 グレーゾーン」とか「集団的自衛権」とか、奇天烈なスーパー間違い定義をしていることで明白。

 「集団的自衛権」の主語は「主権国家」、ROEの主語は「現地部隊」。どうしてこれが混同されるのか。日本のみ世界唯一にこれを混同する間違いを犯すのは、日本が正常な国家でないからだ。

 国際法が定めてしかも全世界が了解している“世界の法”を、安倍晋三内閣も自民党も外務省・防衛省も、国挙げて改竄している。二〇一四年のこの日本の光景は、世界の奇観。日本が国防を忘れた過去半世紀以上の腐敗のツケは、かくも恐ろしい。日本は、世界の常識的な国家であることを放棄した、異常な半国家である。戦慄するほかない。(つづく)

1、時の総理大臣は、コリアンの菅直人。「逮捕・拿捕したゴロツキ船長と違法漁船とを無罪放免にせよ」との中共の理不尽な要求に、「ハイ、日本は中共の属国でございます」と、この漁船も乗組員も帰国させ、果ては船長まで無罪放免で中共に送還した。九月二十五日であった。

 十一月四日、海上保安官の一色正春氏が、法を犯す菅直人内閣の祖国に叛逆する国賊的な暴挙に、義憤に駆られて中共漁船が日本の巡視船に体当たりする記録ビデオをYou Tubeに投稿した。これによって、日本国民は、“第二共産党”民主党政権が隠していた、中共の漁船がどんなに凶暴であるかの事実を始めて知った。海上保安庁は、名だたる共産党の活動家である菅直人首相に従い、愛国者の一色氏の方を国家公務員法違反として事実上の免職処分に附した。日本国は、国防精神のある“愛国”日本人を排斥するのが常である。 

2、中川八洋『尖閣防衛戦争論』、PHP、一〇一~三頁。

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